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2023.06.21

目指せ!パルコの聖地化。新規事業のロケーション・サービスが成功した理由

目指せ!パルコの聖地化。新規事業のロケーション・サービスが成功した理由
ドラマやCMを見ていると「あ!ここ知っている場所だ」と興奮することはありませんか。「ここで○○が撮影していたよね!同じポーズで写真撮ろうよ」とロケ現場が聖地化しているという話も聞こえてきます。最近では、渋谷PARCOへ聖地巡礼に赴く人も増えているようです。 今回は、商業施設の新たな活用方法を見出し、収益にもつなげているパルコのロケーションビジネスをクローズアップ。仕掛人である執行役員 林謙一さんと宣伝部の桧山拓海さんに、新規事業を生み出す秘訣やコロナ禍中にスタートした事業が「軌道に乗った」と感じた瞬間を伺いました。

取材・執筆:苫米地香織 撮影:小野奈那子

 

新規事業、成功のカギは“自分事”。能動的に動くメンバーを集めるには


 

―最初に『PARCOロケーション・サービス』について教えて下さい。

 

林 謙一(以下、林):2020年4月1日からスタートしたパルコの新規事業で、渋谷PARCOをはじめ、現在は池袋、調布、吉祥寺、上野、錦糸町、浦和などの各店舗、映画館の「CINE QUINTO(シネクイント)」や吉祥寺PARCO内にあるワーキングスペースの「SkiiMa(スキーマ)」などを映像作品のロケ地として活用していただくサービスです。2019年度の第一回I'PARCOアワードで「すぐやる賞」を受賞し、すぐに動き出して実現した事業です。

 

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ファクト集めが大事。取材を重ね、ロケーションビジネスの可能性を突き詰めました。

 

 

―『I'PARCOアワード』とはどういうものでしょうか?またチャレンジしようと思った理由は。

 

林:『I'PARCOアワード』とは、経営企画部(当時)とコラボレーションビジネス企画部の二部門が組んで主催した新規事業の社内コンテストです。当時、私は主催の経営企画部の部長でしたので、本来はアワードに応募するのは問題ありかとも思いましたが、個人的な考えとして「主催部門のメンバーであっても、自分事としてアイデアを出そう」と決め、経営企画部のスタッフにも何か考えて応募してみようと言ってきました。

どんな企業の中でも、「新規事業は大事だ」と言う人ほど「新規事業が生まれる仕組みを作ります」や「新規事業を応援します」とバックアップする側にまわりがちだなと感じていました。新規事業は、誰かが考えてくれたら「全力で応援しますよ」ではなく、もっと自分事と捉えて、自らアイデアを出していくことが大切だと思うのです。

幸いに、私は30代、40代、50代の各年代にて、ビジネス研修やマネジメント研修などに参加させてもらう機会があり、3回とも新規事業の立て方を教わりました。そうした学ぶ機会をいただいたので、その成果を出して恩返しをしたいとも思いました。

 

 

―その研修から活かされたことはありますか?

 

林:すべて活かされていますが、一番は“ファクト集めが大事”ということですね。ロケーションビジネスを思いついてまず始めたのは、実際に需要があるのか関係各所へ取材に行くことでした。

最初はロケのマッチングサイトを運営している会社へうかがい、渋谷や商業施設にはロケ地としての需要があるのか、あるとしたら商業施設ではどのくらいの収入が見込めるのか、などを聞いてきました。そこで得られた情報を整理して、次にTV局に勤務する友人を訪ね、裏付け調査を行いました。さらには先行する競合は存在するのかなど、しっかりと調査して、より具体的に事業内容を詰めていきました。

 

 

―余談ですが、ロケーションビジネス以外にはどんなことを思いつきましたか。

 

林:電車に乗っている間に色々と考えるのですが、降りるまでに様々なシミュレーションをして、ボツになることがほとんどでした(笑)。その中でロケーションビジネスは様々な問題を「案外クリアできるのではないか…」と思ったのです。

 

 

―例えばどんな問題を想定されましたか?

 

林:まずは、一緒にこの事業を運営してくれる人がいるかということです。私は学生時代に放送研究会に所属していたくらいミーハーなので、タレントさんが来るとなれば朝早い時間でも深夜の遅い時間でも仕事できますが、誰もが同じようなモチベーションをもてるとは限りません。

ただ、パルコのスタッフならば、その問題もクリアできるのではないかと思いました。例えば店舗営業をしていた経験があれば、館のイベント前には深夜まで準備にかかることもあります。展覧会などの準備では、アーティストの要望に何とか応えたいと思って深夜まで対応したりもします。そういう背景があるので、早朝や深夜の現場対応も苦にしないというメンバーは必ずいると思っていました。

立ち上げメンバーを決める際には、当時のプロモーション部の役員が「この事業を引き受けます」と自分事として動き出してくれて、桧山さんをはじめとする3人のメンバーが集まりました。

 

 

―メンバーを選定する際に林さんからの要望はありましたか?

 

林:まずは社内でプロモーションの仕事をしたことがあり、音楽や映画・CF制作などに興味がある若手に来てもらいたいと思っていました。プロモーション部の役員が新規事業に合いそうな数名に声を掛け、その中から参加の意向を表明してくれた一人が桧山さんでした。新規事業は自分事として動ける人でないと回りませんので、自主的に手をあげてくれたことをとても心強く思いました。

よくある話ですが、新規事業は提案した人に任せきりでは実現しません。パルコもかつては提案者に任せるだけで、周囲のサポートは弱く、結果として途中で挫折するケースが多々ありました。その反省から、新規事業は役員自らが積極的にサポートしようという環境になってきました。それにより役員が自分事としてメンバー集めに動いてくれたことで事業提案を実現にまで進めることができました。

 

 

―桧山さんは新規事業に関わることになり、心がけていることはありますか?

 

桧山拓海(以下、桧山):新規事業はゼロからビジネスモデルを作らなければいけないので、チーム内のコミュニケーションが重要だと思います。良いと思ったことはハッキリ良いと伝え、違うと思ったことは、何が違うのかを整理して伝える。3人しかいないのでお互い気を使うことなく話すことができています。

 

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ゼロからビジネスモデルをつくる過程で、チーム内のコミュニケーションが重要だと実感しました。

 

 

渋谷PARCOに新たな聖地を!単なるロケ地に終わらせない方法


 

―2020年4月から事業がスタートしましたが、その頃は新型コロナウイルスの緊急事態宣言発令で全館休業を余儀なくされた時期でしたね……。

 

林:事業開始まであと1ヵ月という頃から刻々と状況が変わりました。「緊急事態宣言」という未曽有の事態になり、私自身も経営企画部としての仕事が激増しました。それにより、ロケーションビジネスに関わる時間が想定よりも大幅に減ってしまいましたが、メンバー3人が率先して動いてくれたので本当に助かりました。出鼻はくじかれましたが、休業になったからこそ受注できた案件もあったね。

 

桧山:そうですね。最初の実績として、アイドルグループが主演の渋谷PARCOを舞台にしたドラマを撮影することができました。その後も、三谷幸喜さんと箭内道彦さんが手掛けた『劇場の灯を消すな!PARCO劇場編』も撮影できました。ですが、その一方で公開生放送など、いくつかの案件がキャンセルになっていました。残念ですけど、そのおかげで時間ができたので、資料やマニュアルをじっくり作ることができました。

 

林:このロケーションビジネスの念頭にあったのは旧渋谷PARCOにあった“TOKYO FM 渋谷スペイン坂スタジオ”でして、公開生放送を楽しみにお客さまが集まるあの空気感をまた作りたいと思っていたのです。でもコロナ禍の中では、なかなか難しいところではありますね。

 

 

―事業が走り出してから、手ごたえを感じたのはいつごろでしょうか?

 

林:私は、渋谷PARCOを舞台にしたドラマですね。放送後に主演のアイドルグループのポップアップショップを展開して、B1の『QUATTRO LABO(クアトロラボ)』でドラマにちなんだコラボドリンクを出しました。ファンの方たちも撮影場所に訪れ、ロケ地で写真を撮ってSNSに挙げてくれているのを見て、手ごたえを感じましたね。

それから徐々に大きい案件も入るようになり、対応を重ねていくうちに、できることも拡がっていきました。また、単なるロケ地ではなく、パルコが持つリソース(店舗やプロデュース力)を活かして多角的に情報発信できるということも、制作者側の方たちに知ってもらえたと思います。桧山さんは?

 

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制作サイドのこだわりや情熱を自分事として共感できる。それが私たちの強みです。

 

桧山:僕も同じですが、その次に挙げるとしたら、同じ年の年末に携わったアイドルのカウントダウンコンサートですね。事前収録で営業時間中から準備をしていたので、一般のお客さまの混乱を招かないように撮影に挑みました。それまでにない初めての規模感で、どこの部署と調整して誰に相談したらいいか、対応に苦慮しましたが、培ってきたノウハウを駆使して無事に撮影ができて安心しました。

オンエア後の今でもファンの方がロケ地に訪れて、そこで同じ場所に立って写真を撮っていますね。この事業の目的の一つが“聖地化”でしたので、まさにそれが実感できた、もう一つの案件だと思います。あと、制作側としては完全にシークレットにしたい撮影も多いので、そういう点でも信頼を得ることができたと思います。

 

 

―ここまでの3年間でいろんな案件があったと思いますが、その中で特に大変だった撮影は?

 

桧山:調整の大変さでいえば、調布PARCOでのCM撮影ですね。アルコール飲料のCMで「デパ地下の雰囲気を出したい」と制作会社から依頼を受けました。映る可能性のある全ショップに撮影許可を取り、夜間の撮影でしたが、営業中の様子を再現するため一部ショップには食材の提供やショップスタッフの立ち会いもお願いしました。色々と苦労しましたが、各ショップの売上にもつながり、調布PARCO店長や営業スタッフにも喜んでいただけました。

 

林:夜間の商業施設は誰もいないようなイメージがありますが、実際は清掃をしていたり、店舗の内装工事をしていたり、様々な方が仕事をしています。従って、深夜のロケといえども、関係各所と密にコミュニケーションを取る必要があるのです。

パルコは開業以来、様々なプロモーションを仕掛けてきたので、制作サイドのこだわりや情熱を自分事として共感できます。だからこそ、その想いに寄り添い、どんなに困難なことでもご要望をかなえたいと全力で奔走する。それがパルコのロケーションビジネスの強みだと思っています。

 

 

―最後に、今後どんな撮影に利用してもらいたいですか?もしくはロケーションビジネスでやってみたいことを教えてください

 

桧山:これまでドラマやCM、生配信などは対応してきましたが、本格的な映画の撮影はなかったので、そういう案件も受注できるといいですね。渋谷でなくとも、地方店なども利用して、長期撮影など。そういった場合は制作側もそれだけ熱量を持ってつくっていると思うので、それにできるだけ応えていきたいです。

 

林:この事業の原点は、やはり渋谷スペイン坂スタジオなので、かつてのような公開生放送ができるといいですね。お客さまが見て楽しめるようなロケができたら面白いと思います。

 

 

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アイドルグループ出演のCMを撮影した場所

 

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https://www.parco.co.jp/location/

 

 

PROFILE

  • 林 謙一

    株式会社パルコ 執行役員 営業政策部、宣伝部、CRM推進部担当

     

    1990年入社。店舗や本部各部門を経て、2016年営業政策部部長、2017年経営企画部門部長。2022年執行役員就任。2023年より現職。

    新規事業アイデアのアワードに「ロケーションビジネス」を提案して、「すぐやる賞」を受賞。ロケビジネスの事業開始にあたっては、経営企画部兼プロモーション部(ロケーションビジネス担当)という二刀流で活動。

     

     

  • 桧山 拓海

    株式会社パルコ 宣伝部

     

    2018年入社 福岡店営業課を経て、2020年にプロモーション部(現・宣伝部)に異動し、ロケーション・サービスのチームメンバーに抜擢され、現在に至る。今後は、好きなゲームやeスポーツに関わる事業に携われることが目標。