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2023.10.26

大丸松坂屋百貨店・パルコの取り組みに見る、サステナビリティ経営の現在地

大丸松坂屋百貨店・パルコの取り組みに見る、サステナビリティ経営の現在地
大丸松坂屋百貨店とパルコは、持続可能な未来へのコミットメントを強化するため、J.フロントリテイリング(以下、JFR)のサステナビリティ経営の方針をもとにそれぞれの施策を展開しています。社内への浸透や社外のステークホルダーとの連携を、どのように強化しているのでしょうか。JFRグループのサステナビリティ経営を深掘りする企画の後編では、サステナビリティ活動の推進を担う、大丸松坂屋百貨店の米山由紀さんと池本飛雄馬さん、パルコの望月美智子さんの3名に、両社の取り組みや展望について語ってもらいました。

前編:専門組織メンバーに聞く。JFRのサステナビリティ経営の歩みとこれから

 

 

取材・執筆:末吉陽子 撮影:苫米地香織

 

従業員一人ひとりへの浸透を目指す。サステナビリティ推進のアプローチ


 

――JFRのサステナビリティ経営の方針を受けて、大丸松坂屋百貨店とパルコではどのような点に注力してこられたのでしょうか。

 

池本さん米山さん望月さんが話している写真

「サステナビリティ活動は、現場の自分ごと化が大切」と口を揃える米山由紀さん(中)、池本飛雄馬さん(左)、望月美智子さん(右)

 

大丸松坂屋百貨店 サステナビリティ戦略担当部長 米山由紀(以下、米山):サステナビリティ戦略担当では、サステナビリティの推進と計画立案・進捗確認の2つを主に担当しています。私たちは、店舗の従業員がサステナビリティについて理解を深めることを重視しており、各店の営業推進部と業務推進部から1名ずつサステナビリティ推進担当者を選出し、社内浸透の旗振り役として活動してもらっています。

 

大丸松坂屋は、北海道から九州まで店舗があり、それぞれに特色や地域との関わり方があります。そのため、本社から一方的に「こういうことに取り組んでほしい」と伝えるだけではなく、各店舗で咀嚼し、お客様やお取引先様に理解していただくことが重要だと考えています。

 

具体的には、JFRの方針をもとにサステナビリティ戦略担当で全社目標を設定し、月1回のオンライン会議で各店舗の担当者に共有します。全社目標は、各店舗が持つ強みと結びついたかたちで具現化され、それぞれの店舗が独自のCSV=ソーシャルグッドな事業活動に取り組んでいます。各店舗の活動は従業員向けサイト「サステナラボ」などで紹介し、具体的な活動事例を全社で共有しています。

 

サステナビリティ活動を紹介している図

 

大丸松坂屋百貨店 サステナビリティ戦略担当 池本飛雄馬(以下、池本):これらの活動は、従業員、お取引先様が自分ごととして取り組むことが大切です。各店舗のサステナビリティ推進担当者が率先して自分ごと化し、工夫しながら自店舗に落とし込んでいます。例えば、従業員一人ひとりに浸透するようにオリジナルのニュースを制作して掲示したり、お取引先様に再資源化の重要性を理解していただくために「ごみの分別ツアー」を実施したりと、活動は年々発展しています。「サステナラボ」でも、積極的に社内啓蒙を行っています。

 

サステナラボの図

 

パルコ 総合企画部 担当課長 望月美智子(以下、望月):パルコでは、私が所属する総合企画部が当社のサステナビリティ活動を統括しています。当部は大丸松坂屋と同様、現場の自 分ごと化を重視し、若い世代の自由な発想で活動を企画・実行してもらっており、当部はそれらの活動をサポートするというスタンスです。サステナビリティ活動紹介のWEBサイト「PARCO's Sustainability Activities」や社内のサステナビリティ委員会の定例会議などを通して、各部署の事業領域で展開する活動を社内外に発信・共有することで、活動の横連動やさらなる活性化を図っています。

 

店舗では地域のキーマンや団体と組み、テナント各社を巻き込んで地域を盛り上げるような企画や、当社が運営するクラウドファンディング「BOOSTER」を活用して地域の課題解決につながるような企画に取り組む例が増えています。店舗という拠点に軸足を置きながらも、そのエリアの魅力を全国に広くアピールし、ビジネスを拡大していこうというような動きが出てきました。

 

パルコグループが取り組むサステナブルな活動の紹介図

 

 

サステナビリティへの共感を起点にコラボレーション。変わるステークホルダーとの関係


 

――サステナビリティへの取り組みを通して、ステークホルダーに変化を感じますか?

 

米山:当社では、サプライチェーン全体で社会的責任を果たし、環境への配慮を推進するために「JFRお取引先様行動原則」を策定しています。この原則は、JFRグループがお取引先様とともに実現していく持続可能な社会づくりにつながる企業行動について示したもので、2019年10月に第1回お取引先説明会を実施しました。2回目となった昨年の説明会では、サプライチェーン上のCO2削減を焦点に、お取引先約230社に対して当社の思いやお願いしたいことを伝えました。

 

お取引先の質問に答える米山さんの写真

お取引先の質問に答える米山さん

 

こうした取り組みにより、大丸松坂屋はサステナビリティへのコミットメントが強い企業だという理解を深めていただいたと思います。例えば、お取引先様がサステナビリティ関連のポップアップイベントなどを実施する際に、大丸松坂屋を一番に選んでくださるようになってきており、すごく嬉しい変化だと感じています。

 

池本:お取引先様も大丸松坂屋も、「持続可能な社会の実現」を共通の目標としているので、今後はコラボレーションが一層重要になってくるはずです。私も「サステナビリティのことでコラボレーションするなら大丸松坂屋」という兆しを感じています。それはひとえに、従業員一人ひとりの自分ごと化が進んできているからだと思っています。

 

望月:社員の変化としては、サステナビリティへの理解が深まっていると実感しています。パルコはこれまでも店舗と地域のステークホルダーとの連携に取り組んできましたが、あらためて「自分たちの日々の仕事が地域の活性化に貢献している。実はサステナビリティの考え方にも繋がっている。」ということを理解し、パルコの強みだと認識するようになりました。プレスリリースなどを見ても、ステークホルダーに対して自分の言葉でパルコのサステナビリティの考え方を説明してくれているなと感じます。

 

 

サプライチェーン全体の取り組みへ。JFRグループが見据えるサステナビリティの進化と深化


 

――今後の構想について伺います。サステナビリティの取り組みで注力していきたいことを教えてください。

 

池本:各店舗では様々なCSV=ソーシャルグッドな事業活動が展開されていますが、どれも独自性があり、外部へ広めていきたいと誇りに思えるものが多いです。それをサステナビリティ戦略担当が吸い上げて、外部にどんどん発信していきたいと考えています。外部への発信と外部からの評価は、同時に社内への浸透にも繋がると思っています。

 

望月:2022年11月から、JFRが中心となり大丸松坂屋とパルコのサステナビリティ担当が参画する「人権プロジェクト」を実施し、JFRグループの「人権デューデリデンス」に向けて自社のサプライチェーンにおける人権リスクを洗い出し、分析、評価しました。事業会社同士で意見交換することで、自社とは違う視点など、新たな気づきを得ることができましたので、企業が取り組むべき大きなテーマについては、今後もこのような意見交換の機会があると良いと思っています。

また、プロジェクトを通して、人権に対する企業の取り組みの重要性を実感しましたので、当社の社員にもぜひ知ってほしいと思いました。

そこで、社員対象に「ビジネスと人権」をテーマに研修を実施したところ、「外国の児童労働問題などの話はニュースで知っていたが、自分の仕事にどう関わってくるかがあまり結びついてなかった。それを今回知ることができた」といった声が多く寄せられました。このようにサステナビリティに関する情報や学びを積極的に社内に共有していきたいと思います。

 

パルコは、「多様な個性と感性をつなぎ、次世代とともに、心躍るサステナブルなライフスタイルを共創する」というサステナビリティ方針を掲げています。イタリア語で「公園」を意味する PARCO という社名どおり、PARCOに集う多様なクリエイター、テナント、お客様と共に新しい価値を創りサステナブルな社会づくりに貢献したいと考えています。

 

パルコのサステナビリティを紹介している絵図

 

米山:注力したいことは2つあります。1つは、コラボレーションです。「持続可能な社会の実現」は自社だけでは成し遂げることはできません。環境・社会課題に取り組むことの大義を掲げることにより、お客様・お取引先様、地域の皆さまに「大丸松坂屋百貨店と何か一緒に取り組みたい」と思っていただければと思います。様々なステークホルダーと協働で取り組むことにより、小さな渦を大きなうねりに変えていきたいと考えています。

 

もう1つは、CSV=ソーシャルグッドな事業活動の拡大です。事業として収益を生みながら環境と社会に貢献していくことで共感を生む、この活動は、企業として事業成長と価値向上に繋がります。将来的には大丸松坂屋のすべての事業活動にサステナビリティのエッセンスが盛り込まれている状態を理想としています。

お客様、お取引先様と共によりよい未来を描ける百貨店を目指し、業界をリードしていきたいと思います。そのためにも日々前進です!

 

集合写真

JFR、大丸松坂屋百貨店、パルコの担当者は定期的に情報交換し、グループ一丸となった取り組みを推進。

 

 

前編:専門組織メンバーに聞く。JFRのサステナビリティ経営の歩みとこれから

PROFILE

  • 米山 由紀

    株式会社大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 経営企画部部長 サステナビリティ戦略担当

     

    松坂屋銀座店にて約20年間勤務後、大丸松坂屋セールスアソシエイツ、GINZA SIXリテールマネジメント等を経て、2021年3月より現職。趣味はコンポストを活用した家庭菜園。野菜の生育を見ながら二酸化炭素の吸収に少しでも貢献できていればと願う毎日。

  • 池本 飛雄馬

    株式会社大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 経営企画部 サステナビリティ戦略担当

     

    2021年に大丸松坂屋百貨店入社。自主運営のコスメセレクトショップ「アミューズ ボーテ」の販促担当を経て、2022年9月より現職。趣味はサッカー。猛暑や豪雨などの異常気象が屋外スポーツ競技に大きな影響を及ぼすことを知り、大学では気候変動を中心にサステナビリティを学ぶ。仕事を通して「サステナビリティが暮らしの質を高める」ことを広めていければと思っている。

  • 望月 美智子

    株式会社パルコ 総合企画部 担当課長

     

    入社後、パルコ店舗と本部で主にSC事業のマーケティング、プランニング、テナントリーシングなど店舗営業関連業務を担当。2021年よりサステナビリティ推進業務を担当。個人的なSDGs関連テーマは捨てられないロックTのアップサイクル。