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2023.04.12

企業の枠を越えて繋がる時代へ 。「REV WORLDS」の仕掛け人とメタバースの未来を語り合う

企業の枠を越えて繋がる時代へ 。「REV WORLDS」の仕掛け人とメタバースの未来を語り合う
J.フロントリテイリング(以下、JFR)グループは、「三越伊勢丹・大丸松坂屋・パルコのキーマンが語る。メタバースで拡張する我々の未来」と題した社内セミナーをオンライン開催しました。セミナー開催を告知すると、「メタバースに関わる部署ではないが、参加できるのか」などの問い合わせが相次ぎ、当日は約200人が参加。メタバースに対するグループ社員の関心・期待の高さが浮き彫りになりました。そして特筆すべきは、三越伊勢丹の仲田朝彦さんが登壇者の一人として加わっていること。JFRグループの社員教育の場に、なぜ競合他社の仲田さんが顔を並べているのでしょうか。企業の枠を越えてどんなことが語られたのでしょうか。

取材・執筆:苫米地香織 撮影:藤原葉子

 

仮想空間にできた新宿東口エリアで、新しいコミュニケーションが始まる


 

仲田さんは三越伊勢丹の社内起業制度を利用し、2021年3月にVRを活用したスマートフォンアプリ「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」をスタートさせました。百貨店・小売業界内でデジタル施策に取り組む人たちの間では、なかなかの有名人です。

 

REV WORLDSは「きっかけを、インストールしよう。仮想都市のコミュニケーションプラットフォーム」をコンセプトに開発され、JR新宿駅東口エリアをモデルにしたメタバース空間で、いろんな人達とコミュニケーションしたり、伊勢丹へ行ってショッピングを楽しんだりすることができます。

 

特徴的なのは、アプリを立ち上げて最初に降り立つ場所が、テレビなどの中継ポイントとして有名な「新宿アルタ前の東口広場」であること。仲田さんは「伊勢丹新宿本店前を起点とするのではなく、あえて最初の一歩は新宿駅東口にしました。伊勢丹への行き方がわからないというお声もいただきましたが、REV WORLDSはあくまでもコミュニケーションプラットフォームなので、“伊勢丹での買い物ありき”ではなく、仮想空間の“街歩き”を楽しんでいただくことにこだわりました。」と語ります。

 

また仮想空間であれ、新宿に遊びに来るユーザー(アバター)はファッションにも関心があるだろうと想定し、ファッションアイテムをアバターに“重ね着”させられる仕組みを実装しています。REV WORLDSの中で集められるポイントを使って好きなブランドのアイテムを購入し、自分なりのコーディネートでアバターに着せ付けていくことができるのです。他のユーザーと出会うと、相手のプロフィールだけでなくアバターが身に着けているアイテムについて知ることもできます。

 

仲田さん:リアル社会でも、オシャレな人を見つけると「どこのブランドを着ているのかな?」と気になるけれど、よほどのことがない限り相手に話しかけることはできません。それが仮想空間では簡単にできて、それをきっかけにコミュニケーションすることも可能です。

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VRを活用したスマートフォンアプリ「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」 提供:株式会社三越伊勢丹

 

開発のきっかけは、今から遡ること15年。2008年に伊勢丹に入社した仲田さんは、リーマンショックで景気が冷え込み、担当する礼服がなかなか売れないという経験をしました。百貨店の市場規模が縮小するのを目の当たりにし、「ファッションが好き、伊勢丹が好きという一心で入社したのですが、百貨店の新しい収益モデルを築かなければという危機感に駆られました」と振り返ります。そんな時、iPhone発売におけるスティーブ・ジョブズ氏のプレゼンが仲田さんの心をとらえました。

 

仲田さん:ジョブズ氏は「スマートフォンでインターネットが使えるってどういうことか見せてあげる」と、オンラインマップでイタリアのコロッセオを表示したんです。スマホの画面に繰り広げられる世界を見て、スマホでバーチャル旅行を体験できるんだと衝撃を受けました。コロッセオが伊勢丹新宿本店の外観と似ていたということもあり、ネット上にバーチャル伊勢丹を建てたい!そこで新しい百貨店のあり方を示したい!とワクワクが止まりませんでした。

 

その時、湧き上がる想いを手帳に書き留めたという仲田さん。それからCG制作を学ぶなど、想いの実現に向けて努力を重ねますが、「夢があって面白い」という反応は得られるものの、なかなか実現には至らなかったそうです。社内起業制度に手を挙げた時も実現可能性がネックに。「だったら、つくっちゃうしかない」と自らデモ動画を作成し、ついにREV WORLDSが誕生しました。

 

 

メタバースがもたらす「コミュニケーションの醍醐味」


 

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セミナー登壇者 左から | パルコ・安藤 | 三越伊勢丹・仲田さん | 大丸松坂屋百貨店・田中 |

 

REV WORLDSローンチから約2年、今も仲田さんはメタバースの可能性を追求しています。

 

仲田さん:リアルな売場では、販売員の接客を通じて、ネットでは見つけられない商品情報や自分のための着こなし提案など、“印象に残るコミュニケーション”を体験できますが、ECではそのような機会はまずありません。思い出に残る体験には“時間とプロセス”が大切だということを痛感しています。そう考えると、メタバース空間であれば思い出に残るEC体験が可能になるのではないでしょうか。

 

2020年から世界最大のVR(※)イベントである「バーチャルマーケット」に計5回参加している大丸松坂屋百貨店の田中さんも共感を示します。

 

田中直毅(以下、田中):初出展の時は、コロナ禍で実店舗が休業となり、お客様との接点はECしかないという状況下での挑戦でした。実際に出展してみると、リアルな売り場と同じで、お客様とのコミュニケーションが大切だということが分かってきました。そのため、3回目の出展からはお客様に楽しんでいただくことに重きを置いています。4回目からはバーチャル店員を起用し、“アンバサダー接客”を導入。店員がお客様に味見として「あ~ん」をしてあげるというユニークな接客をしたところ、その商品を実際に食べてみたいとECから購入するするお客様が続出しました。“リアルな売場では体験できないコミュニケーション”がきっかけで、リアルな売り上げにつながった事例です。

 

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「バーチャル大丸・松坂屋」では、アンバサダーによる接客を楽しんでいただきました。

 

パルコの安藤さんも、お客様に楽しんでいただくために、XR技術(※)を活用してユニークな仕掛けをパルコ各店で展開しています。

 

安藤寿一(以下、安藤):上野動物園のパンダの誕生日をお祝いする企画として、AR(※)を使ってパルコヤ上野の館内をパンダだらけにしたり、松坂屋上野店の北口ウィンドウからパンダがたくさん降ってくるという仕掛けをつくりました。
他にも、パルコとPsychic VR Lab、ロフトワークの3社で「NEWVIEW(ニュービュー)プロジェクト」を立ち上げ、昨年のクリスマスには渋谷のスクランブル交差点でバーチャルYouTuberキズナアイの関連キャラクター、音声特化型Ai「#Kzn」のXRライブを展開して話題となりました。

 

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音声特化型Ai「#Kzn」が渋谷に巨大出現。

 

メタバースという言葉だけを聞くと、まだまだ先の未来のように感じてしまうところもありますが、各社で取り組んでいるメタバース施策を聞いていると、メタバースが身近になる日はすぐそこに来ていると感じます。あとは個人がその世界へ一歩踏み出すだけの問題のようです。

 

オンラインセミナー終了後、登壇者5人と主催したJFR・経営企画部の今泉さんに話を聞きました。

 

今泉悠樹(以下、今泉):きっかけは、日本小売業協会のセミナーで聞いた仲田さんの講演です。当社グループには「自分で考えて行動しよう」「失敗を恐れず挑戦しよう」という行動指針があります。仲田さんは他社の方ですが、まさにそれを実践していらっしゃるということに感銘を受けました。想いを形にするまで諦めないという熱意、努力、行動力をグループのみんなにもぜひ伝えたいと思いました。

 

林直孝(以下、林):本当に今日の話は業務領域にかかわらず、グループのみなさんに聞いてもらいたいですね。

 

今泉:不躾な申し出を受けていただけるか不安でしたが、すぐに快諾していただき、嬉しかったです。

 

仲田さん:今日はある意味“夢がかなった日”という感じでこの場所にいます。メタバース領域はとても広くて、深くて、一人一人感じ方が違います。その中で、各社の担当者が孤独に頑張っている状況です。仮想空間に一つの街をつくるような仕事なので、一社だけが頑張ってもダメで、ずっと横の連携が大切だと思っていました。今日ここでお話しすることができ、その第一歩が踏み出せたかなと感じています。

 

洞本宗和(以下、洞本):仲田さんや皆さんの話には思いが溢れていて、こういった領域を推進するには担当者の熱量が大切だなとつくづく思いました。

 

安藤:仲田さんから聞く話はいつも良い刺激になります。このセミナーを機に、グループの中でメタバース領域にチャレンジしたいという機運が高まることを期待しています。

 

田中:私も百貨店の実務からスタートした一人なので、仲田さんの話を聞いて、もっとやれることがあるんじゃないかと思いましたね。例えば、リアルな催事との連携はやってみる価値があると感じました。ECの良さは購入までのスピード感ですが、メタバースの良さはコミュニケーション。百貨店としてこれまでやってきたことが生かされると思いました。

 

仲田さん:田中さんのアンバサダー接客はすごいアイデアだと思いました。やはり百貨店業界にはアイデアマンが多いですね。百貨店には「良いものが揃っている」というイメージがありますが、コミュニケーションによってそれがさらに価値の高いものになると感じました。

 

洞本:一方で、売上への直接効果など様々な課題もありますね。

 

仲田さん:確かにそこは起業制度のプレゼンをした時に難しさを感じました。「未来のお客様をつくっている」と理解してもらうことが重要ですね。そこで最近は「REV WORLDS」の利用者データの解析も始めたところです。

 

林:それはぜひ聞きたかったところです!実は私も「REV WORLDS」でアカウントをつくったのですが、女性のアバターにしてみたんです。

 

仲田さん:僕もそうしました。リアルでは男性服を買うのに、メタバースでは女性服を真剣に選んでいる自分がいて、ごちゃ混ぜになりそうです。購買データなどを見ていても、性別の境界が曖昧になってきていると感じます。

 

林:最近ではジェンダーレスファッションが広がってきていますが、そういう点でもリアルとメタバースを行き来する人が増えるかもしれませんね。

 

仲田さん:生活シーンに密接した小売業がメタバース事業を先行すると、メタバースで何をしたいかがイメージしやすく、メタバースが一般化するのではないでしょうか。業界をあげて推進していきたいですね。

 

※用語解説

XR:クロスリアリティ。VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)といった現実世界と仮想世界を融合して、新しい体験を作り出す技術の総称

 

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企業の枠を越えて連携が生まれつつあります。

PROFILE

  • 仲田 朝彦

    株式会社三越伊勢丹 営業本部 オンラインストアグループ デジタル事業運営部 レヴワールズ マネージャー

     

    2008年に株式会社伊勢丹(現三越伊勢丹)に入社。紳士服担当として店頭・バイヤー業務を経験。 2019年に社内起業制度を活用し、アバターへのファッション価値やライフスタイルを提案する「仮想店舗とデジタルウエア事業」のトライアルを実施。 2021年よりメタバースを活用したスマホアプリ「REV WORLDS」事業の運営を開始、現在に至る。

  • 田中 直毅

    株式会社大丸松坂屋百貨店 本社営業本部 MDコンテンツ開発第2部

     

    大丸・大阪心斎橋で販売・催事運営を経験後、本社事業開発部門で近隣の商業施設開発・運営のディベロッパー業務を担当。百貨店事業に帰任し、本社販売促進部門において、ギフト企画を主に担任。2016年からMD部門に業務・所属移管となり、企画運営とMDINGが一本化、ギフト業務が深化、現在に至る。

  • 安藤 寿一

    株式会社パルコ 宣伝部

     

    前部署のデジタル推進部所属時から、主にプロモーションに関するデジタル推進を担当。その中でも X R 技術の活用を主担当とし、PARCO 各店や展覧会、営業企画等でXRを活用した企画のトライアルを実施。 また、XRアーティストの発掘育成を目的とした、株式会社 Psychic VR Lab 、 株式会社ロフトワークとの共同プロジェクト「 NEWVIEW 」 の 事務局を担当。