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2023.04.25

百貨店だからできたファッションサブスク「アナザーアドレス」を支えるチームの秘密

百貨店だからできたファッションサブスク「アナザーアドレス」を支えるチームの秘密
「百貨店発ファッションサブスクリプションサービス」として公式発表された直後から話題となった『アナザーアドレス』。2021年4月に本格スタートし、この2年間で登録会員数は約1万6000人、取扱いブランドは立ち上げ時50ブランドだったのが、今では200ブランドを超えました。2023年3月からはかねてからのお客様の熱い要望が叶い、メンズラインもスタート。今、業界内外から注目されているサービスの一つです。そんな話題性はもちろん、「百貨店がなんでサブスク?」と疑問に思う人も多い『アナザーアドレス』とは、いったいどんなチームが運営しているのでしょうか?

取材・執筆:苫米地香織 撮影:藤原葉子

 

凝り固まった頭を柔らかくするため人財構成から考えた


 

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―はじめに『アナザーアドレス』をローンチすることになった経緯を教えて下さい。

 

田端 竜也(以下、田端):アナザーアドレスは、『FASHION NEW LIFE』をコンセプトとして掲げていますが、自分は『ファッションは人をエンパワーできるもの』だと思っています。ファッションを通して、気分をあげたり、自信をつけたり、結果として出会いやビジネスがうまくいくきっかけになったり。ただ、昔(バブル崩壊前)と違ってそういった“きっかけ”を享受できる人がどんどん減っているように感じていたのです。そこで“ファッションサブスク”という形でもっと多くの人に新しい服との出会いや、ファッションで楽しくなる経験をして欲しいと思いました。

 

そんな中、入社時から留学やオープンイノベーションの推進でいろんな外部の人とつながる一方で、経営企画という会社の根幹となる部署に所属して感じていたことが、『社内の人たちが画一的になってしまっている』ということでした。なので、これを社内人財だけでやるのは成長の芽が出てこないのではと思い、最初の段階から社内人財と外部人財のハーフ&ハーフでチームを構成したいと考えていました。新規事業立ち上げというより社内ベンチャーに近い印象で、ゼロから考えることが多く、社内人財でも窪川さんのように「自分はこれがやりたい!」という熱意がある人やファッションが好きな人でないとついて来られないんじゃないかなと。

 

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窪川 有咲(以下、窪川):私は『アナザーアドレス』に携わる前は大丸東京店で販売促進を担当しており、新規事業の話を聞いたのは丁度コロナ禍でした。販促の仕事はお客様を店に呼び込むことなのに、お客様を集めることができないというジレンマを抱え、この業界は大丈夫なのかと不安になっていました。それと同時に“ミニマリスト”や“シンプルな暮らし”といったキーワードにも関心があり、個人的にファッションサブスクサービスの事を調べていました。一通り調べてみて、自分にしっくりくるブランドや服がラインナップされているサービスになかなか出会えませんでした。そこに『アナザーアドレス』の社内公募が出され、事業内容を見て「こういうサービスを待ってた!」とうれしくなって、すぐに手をあげました。

 

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田端:はじめは二人で事業を始めてそこに公募の窪川さんが加わり、足りないところを補うようにメンバーを増やしていきました。特に一番課題だったのが商品のラインナップで、ブランドのことを知っていて、ファッション業界に根を張ってきた人に来てほしいと思っており、三浦さんや浅沼さんのような外部人財が集まってきてくれた感じです。

 

 

 浅沼 陽介(以下、浅沼):実は入るまで事業全体はあまり理解していなかったのですが、田端さんの話やパーパス、これからやりたいことに強く共感して、このチームに入りました。前社では長く買付やMDをしていて、売れ筋を仕入れて、在庫が残りそうになったらセールにかけ、それでも時には在庫が余って、さあどうするといった感じで、小売業で常に付きまとうこの流れにジレンマを抱えていたときにこの話を聞いたので「これもチャンスなのかな」と思いましたね。

 

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三浦 桂(以下、三浦):私も業界歴が長く、店頭販売からキャリアをスタートし、バイヤーやセールス、MDなどを経験してきました。実は『アナザーアドレス』に携わる前は海外ブランドのセールスもしていて、一取引先側だったんです。だから事業のことはある程度知っていました。その後、その仕事を離れたタイミングで田端さんから声を掛けられたのが事業加入のきっかけです。

 

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―古暮さんも窪川さん同様、社内人財ですが、どういった経緯でこのチームに入ったんですか?

 

古暮 夢宇(以下、古暮):そもそも入社時から「バイヤーをやりたい」と言ってきたんです。3年間、売場で販売を経験したタイミングでの面談でも「ファッションに関わりたい」「バイヤーをやりたい」と言い続けてきた結果、ここに配属されたという感じです。

 

 

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―チームに加わったのはローンチ1年後ですが、その間はこの事業をどう見ていましたか?

 

古暮:個人的にはまだまだ服を買いたい、所有したいという思いが強いのですが、この事業の良いところは、自分がいいなと思ったアイテムを予算や手持ちの服の量を気にせずに服を選べる楽しさがあることだと感じていて、その辺りの実態がどうなっているのか気になっていました。

一消費者として新たに服を買うだけではない、反対に売る立場としては服を買い付ける、売るだけではない服とのかかわりができる、と人事からも聞いて、率直に「やってみたい!」と思いました。

 

 

新しい服との出会い方をつくる『アナザーアドレス』はダイヤの原石


 

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―いま、実態という言葉が出ましたが、実際にユーザーはどんな方が多いのでしょうか?

 

田端:メンズはまだスタートしたばかり(23年3月スタート)なので、登録者の約90%以上は女性です。もう少し詳しく言うと、首都圏、関西圏、中京圏で90%、40代のお客様を中心に30-50代の方が70%、「都市圏で働く等身大の大人世代」の方に支持をいただいています。

 

窪川:事業立ち上げからCRM、顧客周りを担当してきて、サービスが発表されたときは多くの方から「待ってました!」と喜んでいただいている感覚がありました。顧客対応にLINEを利用しているのですが、そこでもお客様からのメッセージの最初に「いつも素敵なお洋服をありがとうございます」と入れてくれる方が多かったり...基本的に問合せをするということは、お客様が何かしら困っている状況なのですが、そういう言葉があるということに感謝しています。LINEは気軽にメッセージを送りやすいので、追加して欲しい機能、ブランドなどの要望をいただくことも多く、「夫が羨ましがっている」というお客様の声からメンズも始まったんです。優先順位をつけてこれは必要だよねと判断した機能などは早ければ2週間でサイトに反映させています。常にアップデートを続けていることがお客様から支持されている理由ではないかと思います。お客様としては、自分の予定に合わせて借りた服を着て、周囲の人から褒めてもらうことが増え、心が満たされていくというループができて、継続につながっているのではないかと思います。

 

田端:元々事業計画には“ジェンダーレス”もキーワードとして入れていました。僕自身、低い身長を活かして女性の服を着ることもありましたし、今では普通に女性が男性の服を着ています。それも加味したビジネスモデルだったので、女性ユーザーの5%くらいがメンズアイテムを借りています。

また、この事業は「新しいファッションとの出会い」がテーマなので、それを実感してくれているお客様もいると思うとうれしいですね。

 

 

―例えばみんなが憧れるブランドばかりが借りられるなど、借りられるブランドに偏りなどはないですか?

 

三浦:思った以上にまんべんなく借りられている印象です。百貨店にあるブランドからセレクトショップでしか見られないブランドなど、国内外のいろんなブランドが網羅されていますが、大きな偏りは感じていません。国内ブランドだと、サイズや着心地の安定感も大きな魅力の為、日ごろから愛用されているファンの方が借りるケースも多いです。一方、ちょっと手が届かないような海外の高額ブランドのバッグなどは、突出して借りられているという傾向も見られます。

 

お客様も最初はブランド単体で検索される方が多いようですが、利用するうちに色やテイストで絞るようになって、ブランドの境目無くお選び頂いている気がします。最近はブランド側から、「借りてみて良かったので直接見に来ました、といって購入するお客様がいる」と聞く事も多いです。それもあり、個人的には『アナザーアドレス』は体験型サービスだと感じています。

 

田端:ビジネスとして、借りるブランドに偏りが出たら事業は成り立たないと考えています。事業開始前に、ブランド名を伏せてアイテムの画像だけで見せた場合と、ブランド名を入れて見せた場合とで、選び方がどう違うかを試してみました。結果は、思ったより人はブランド名に左右されない、ということが分かりました。憧れブランドを借りたい層も確実にいますが、結局は自分に似合うものを探している人の方が多いし、ファッションラバーというより、オシャレはしたい、可愛いと思われたい、だけどいろんな制約でファッションから離れた人がいるから、このビジネスが成立しているんだと思います。

 

窪川:この2年で100アイテムは借りたと思いますが、私も最初はブランドで絞り込んで商品を探していました。でも最近はブランドを気にせず、直観的に着たい!可愛い!と思ったアイテムにも挑戦していますね。

 

 

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―サービスを運営してみて、気づきとして得たことはありますか?

 

窪川:他社も含め、このサービス自体の認知が足りていないのが現状だと思います。服が欲しいと思ったとき、最初に“借りよう”と思う人はまだ少ないです。いずれ、マス層が“買う”か“借りる”かの選択を当たり前のようにする時代がくると思うので、その時までにファッションサブスクの第一線を走るサービスとなるように努力していかなくてはならないですね。

 

田端:大変なことはありますが、百貨店をはじめとする小売業界が停滞する中で、こういった新しい事業で成長できることは、ある意味で幸せだと思います。まだダイヤの原石のような事業なので、もっと磨いていきたいです。

 

 

―これから磨いていきたいところはどこでしょうか?

 

田端:今年のテーマは“選びやすいサイトにすること”です。『アナザーアドレス』はアイテムをアーカイブと捉えていて、シーズンごとに蓄積されていくため、無限に服が増え続けるんです。お客様から「服が見つけにくい」という声が徐々に大きくなっていて、今後は探しやすさをどう表現すればいいかを考えていきます。

 

浅沼:小売時代は徹底的に探しやすさを突き詰めていましたが、逆にそれが選ぶ楽しさを半減させていたかもしれないと思ってます。そう考えると、見つけにくさといった“不都合さ”が他社との差別化になるのかもしれませんね。その辺りはお客様とバランスを見ながら作れると面白いですね。

 

窪川:サブスクビジネスは、お客様に継続していただくことが重要なので、“服が多すぎて選べない”というのは大きな課題です。自分で選べる楽しさに、パーソナルな提案を追加していけるように改善していきたいです。

 

古暮:僕は納品周りが担当なので、まずは商品をオンタイムで動かしていけるように運営することです。お客様が欲しいときにサイトに公開できるようにコントロールすることが直近の目標です。

あと田端さんは「アナザーアドレスはファッションラバーのためのサイトではない」と言っていましたが、これだけ服がアーカイブとして溜まっていけば、ゆくゆくは服が好きな人が集まるのではないかと思います。当時買えなかったあの服が借りられる、となることがこのサービスの強みになるのではないかと思っています。そうなった時にキレイな状態で出せるように大切にアイテムを扱っていくことも大事になるなと。

 

三浦:借りるという形ですが、考え方によってはこれもECの一つではないかと思っています。実店舗含め多くのショップがある中で『アナザーアドレス』を選んでいただいているお客様には、常にワクワクできる提案をしていきたいですね。ブランドとのタッチポイントになるような服の見せ方ができるともっと良くなっていくのではないかなと思っています。

 

PROFILE

  • 田端 竜也

    株式会社大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 DX推進部

    AnotherADdress(アナザーアドレス)事業責任者

     

    2011年に大丸松坂屋百貨店(J.フロント リテイリング)に入社。大丸札幌店でワインアドバイザー/ソムリエとして売り場運営に従事した後、14年よりJ.フロント リテイリングのIT新規事業開発室へ。以降、一貫してIT、スタートアップ周辺の新規事業案件に携わる。現在はアナザーアドレスの責任者として事業拡大を推進。明治大学大学院で経営学修士、マレーシア工科大学大学院で経営工学修士を取得。

  •  浅沼 陽介

    株式会社大丸松坂屋百貨店 DX推進部

    AnotherADdress(アナザーアドレス)MD担当

     

    服飾専門学校を卒業後、セレクトショップに入社、販売の基礎を学ぶ。その後、新たなセレクトショップ事業拡大のタイミングで参画し、約20年に及ぶ多彩な経験を経て、2022年10月より(株)大丸松坂屋百貨店、DX推進部に入社。AAD事業や大丸の歴史を学びつつ、中途のバイヤーチームとともに試行錯誤しながら日々奮闘中。

     

  • 三浦 桂

    株式会社大丸松坂屋百貨店 DX推進部

    AnotherADdress(アナザーアドレス)MD担当

     

    大手セレクトショップの販売からキャリアをスタート。その後、店舗マネージャーを経て、国内外の大手セレクト数社にてバイヤーを経験。バイイング以外にも海外ブランドのセールスやMD、商品開発等など多岐に渡る職種に従事。2022年3月、アナザーアドレスのバイヤーに着任。

  • 窪川 有咲

    大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 DX推進部

    AnotherADdress(アナザーアドレス)CRM担当   

     

    2013年に大丸松坂屋百貨店( J. フロント リテイリング)に入社。大丸東京店にて売場の販売業務を経験後、 同店の広告・WEB担当として販売促進・解析に 5年間従事。2020年6月より社内立上げの公募による選抜を経て、ファッションサブスクリプション事業「AnotherADdress」立上げメンバーに。現在はCRM担当として、「AnotherADdress」の顧客満足度と顧客ロイヤルティ向上を目指す。

  • 古暮 夢宇

    大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 DX推進部

    AnotherADdress(アナザーアドレス)MD担当(ディストリビューター)

     

    2019年に大丸松坂屋百貨店( J. フロント リテイリング)に入社。大丸心斎橋店で本館のリニューアルオープンを経験。その後大丸東京店の婦人洋品売り場、GINZA SIXのSIXIEME GINZAで販売を学ぶ。2022年3月よりアナザーアドレスに所属。