1. TOP
  2. FRONT LINE 一覧
  3. メンチカツから海洋ゴミまで。百貨店の枠を超えた「九州探検隊」の幅広い活動を知る

2023.08.08

メンチカツから海洋ゴミまで。百貨店の枠を超えた「九州探検隊」の幅広い活動を知る

メンチカツから海洋ゴミまで。百貨店の枠を超えた「九州探検隊」の幅広い活動を知る
株式会社 博多大丸が65周年記念事業としてスタートした「九州探検隊」。九州にある「ひと・もの・こと」を発掘し、お客様に魅力を発信・ご紹介することで、九州全体の活性化を目指すプロジェクトです。丸5年が経過し6年目を迎えた今、九州119市のうち112市と情報発信のアンバサダー認定を結び、百貨店を超えた動きを見せています。後編では、チームの具体的な活動内容を知るべく、九州探検隊のメンバー3人に探検隊を代表してインタビューしました。

取材・執筆:神代裕子 編集:末吉陽子 撮影:音𣷓潤一(Photo Nagi)

 

「ひと」の魅力に動かされ、人吉との縁が深まった


 

「九州探検隊の活動で出会った『ひと』の中で、私が印象的だったのは、熊本県人吉市で地元の農産物を使った商品を手がけている『球磨川アーティザンズ』の代表・田畑奈津さんです」

 

そう語るのは、営業推進部や食品部などでバイヤーやマネージャーを経て、現在九州探検隊の隊員No.004として活動する伊藤敬一郎さん。田畑さんとの出会いは、熊本の銀行が主催したオンライン商談会だったと言います。

 

博多大丸 伊藤敬一郎(以下、伊藤):「田畑さんは海外で25年ほど暮らしたのち、人吉市に帰郷。地元の魅力を再認識して『ふるさとに貢献したい』と起業されたそうです。ご自身の海外での経験やパイプを人吉のために生かしたいと熱心に活動されていました。彼女の言葉も行動もすべてが真剣なところに魅力を感じて、商談後すぐに人吉まで会いに行きました」

 

画像

『球磨川アーティザンズ』代表・田畑奈津さん

 

まずは、博多大丸として「球磨川アーティザンズ」が作っている商品の販路拡大から開始。いろいろ話をする中で、田畑さんが2020年に起きた「球磨川豪雨災害」からの復興に尽力していることを知り、九州探検隊として何かできないかと考えたと言います。

 

伊藤:「われわれも力になろうと、博多大丸で被害状況を伝えるパネル展を開催したり、クリスマスツリーを復興支援の視点で田畑さんと一緒に作ったりしました。また、田畑さんに球磨焼酎の蔵元さんを紹介していただき、球磨焼酎フェアや蔵元ツアーを実施するなど、彼女を通して人吉の地域や人々と身近な関係になっていきました」

 

 

画像

「魅力的なひととの出会いはワクワクします。私たちも成長させていただいています」と笑顔で語る伊藤さん

 

田畑さんに限らず、九州探検隊の活動に欠かせないのは、その土地で活躍する「ひと」との出会いがあってこそ。地域を盛り上げていく仲間として、一緒に同じ目標に向かってくれるひととの出会いがあってはじめて、九州探検隊の活動も具体的になると伊藤さんは語ってくれました。

 

 

地元で愛されていたメンチカツを観光資源に


 

九州探検隊の「もの」の取り組みを代表するのは、宮崎県都城市とのプロジェクトです。きっかけは、2021年9月に博多大丸で開催した「宮崎展」でした。ここからさらに発展することになり、観光庁「看板商品の創出事業」への参画から担当になった九州探検隊の隊員No.006の上杉恵さんは、今までを振り返ります。

 

博多大丸 上杉恵(以下、上杉):「都城市に出品を打診したところ、メンチカツを販売することに。すると大好評。都城市とこれまでの百貨店の中での取り組みから、さらにステップアップし、観光庁の令和4年度『地域独自の観光資源を活用した、地域の稼げる看板商品の創出事業』挑戦することになりました。メンチカツで都城市を一緒に盛り上げましょうと、地域に愛されているメンチカツでプロジェクトをスタートさせました」

 

画像

メンチカツが都城市の看板商品となり、都城を知り訪れるきっかけとなる看板商品を目指し始動しました。「2023年4月にリニューアルオープンを予定していた道の駅『NiQLL/ニクル』の目玉商品とすることをマイルストーンにおいたのも一つの指標です」と上杉さん

 

都城市は養豚が盛んなことから、精肉店などでは、硬かったり脂が多かったりして売りづらい部位をミンチにしておいしく食べてもらおうと、メンチカツにして販売していたことが、都城でメンチカツが生まれたルーツ。地域の人は一度に10個、20個と買って帰ることもあり、メンチカツは生活に根差した商品でした。

 

そこで、メンチカツを手がける精肉店や生産者に加え、地域の飲食店にも協力を得て、15事業者・16店舗でチームを結成。飲食店には新メニューを開発してもらい、お店でもメンチカツを楽しめるようにしました。

 

また、プロジェクトの概要や都城市が「日本一のお肉王国」であることが伝わる冊子も作成しました。メンチカツが生まれた背景や参加店舗などを紹介。ロゴや包材も作り、ブランディングしていきました。

 

 

画像

冊子『都城メンチ』(写真左上)と、ロゴや包材(写真左下)都城メンチ(写真右)

 

 

上杉:「受験に勝つ!」とかけて、地元・志和池中学校で中学3年生にメンチカツを進呈するイベントを実施するなど、地域の人々も巻き込んで盛り上げました。さらに、道の駅『NiQLL/ニクル』でも非常に売れていますし、メディアにも取り上げられ、応援してくれる人も増えています」

 

昨年12月に都城メンチをお披露目し、メンチカツのブランディングで終わるのではなく、名物になれるよう今年度も都城市から委託を受けて伴走支援を続けます。「あくまでも主役は生産者と事業者の皆さん」と上杉さんは語ります。

 

この「都城メンチ」のように、地域では知られているのにまだ日の目を見ていない商品や、その地域ならではのストーリーを持った商品を九州探検隊が情報発信をしていくことで、九州各地を盛り上げていきます。

 

 

海洋プラスチックごみ問題を啓蒙するための活動も


 

「こと」の取り組みで代表的なプロジェクトは、長崎県対馬市との海洋プラスチックごみ問題の啓蒙活動です。発端は各隊員メンバーが地域を行脚する中で、各地の海洋プラスチックごみの問題について知り、私たちに何ができるかを考えたなかで生まれた活動です。

 

博多大丸 箱崎純史(以下、箱崎):「日本は海に囲まれているため、海に隣接する地域では海洋プラスチックごみの問題を抱えていました。しかし、私たち自身は実感がなかったので、伊藤隊員の発案で福岡県の新宮海岸で行われているビーチクリーンに参加することにしました。そのビーチクリーンで、大量のマイクロプラスチックをピンセットで取り除くうちに、事の深刻さを実感しました」

 

画像

マイクロプラスチックへの危機感を覚えたと振り返る箱崎さん

 

マイクロプラスチックとは、強い紫外線に晒されたプラスチックごみが分解されて直径5ミリメートル以下になったプラスチックのこと。自然に分解されることはないため海洋生態系への影響が懸念されています。海洋ゴミについて詳しく調べるうちに、日本で一番ごみが流れ着くのは長崎県対馬市だと知り、現地に話を聞きに行きます。そこで目にしたのは、想像以上にひどい状況でした。

 

箱崎:「対馬には、日本一海洋プラスチックごみが漂着する地で、年間約3万立方メートルのごみが流れ着くそうです。実際の様子を見て、多くの人に知っていただかないと、社会全体の意識は変わらないと感じました」

 

 

画像

対馬の海岸に押し寄せたごみ

 

2022年11月に対馬市と博多大丸はSDGsに関する包括連携協定を締結。クリスマスツリーを活用した啓蒙活動がきっかけとなり、連携協定につながりました。

 

箱崎:「対馬市に群生するウミテラシ(※1)をイメージしたデザインを採用し、ツリーの裏側には実際の海洋ごみを展示・解説するなど、周知を図りました。ツリーのデザインコンペでは、参加者には実際に対馬に行って現状を見て来てもらいました。また、海洋ごみを砕いたプラスチックチップで、九州産業大学造形短期大学部の学生たちにサンドアートを作ってもらうなど、多くの方に関わっていただきました」

 

また、「海ごみタイルアートプロジェクト」も実施。これは回収された海洋プラごみをプレシャスプラスチック(※2)で使う機械で溶かし、タイル型に成形、それらを張り合わせて一つの絵柄で表現するものです。制作に携わった人、鑑賞した人の海洋プラごみ問題への関心を高めることを目指して実施。教育の視点から対馬市の学生たちにも参加してもらったそうです。

 

(※1)ウミテラシ(海照らし)とはモクセイ科/ヒトツバタゴ。国指定の天然記念物で、対馬では国内最大級の3000本が群生。一斉に咲く白い花が山肌を白く染め、海面に明るく映えることから「ウミテラシ」と呼ばれる。

(※2)プラスチック廃棄物をリサイクルし新たに加工する活動。小さなプラスチック工房をつくれるDIYマシンンの設計図を誰でもダウンロード可能にすることで、リサイクル支援の輪は国内外に広がりを見せています。

 

 

画像

対馬の代表的な渡り鳥「ヤマショウビン」をモチーフにしたアート作品は、対馬市の学生から市民の参加により制作(写真左)海洋プラごみを粉砕して作られるチップを使用(写真右)
 

箱崎:「この活動を知ってくださった福岡県の相島でも、タイルアートに取り組む予定です。海ごみ問題に関する啓蒙活動や行動変容につながるきっかけとなるような活動を地域と一緒に取り組むことができればと思っています」

 

活動の領域を従来の百貨店ビジネスに限定せず、幅広い「ひと・もの・こと」を発掘している九州探検隊。それを可能にしているのは、隊員たちの「九州各地の役に立ちたい、素晴らしさを伝えたい」という熱い想いです。今回のインタビューで紹介した活動以外にも、従来の百貨店のスタイルとは一線を画す活動を展開しています。この5年間の活動で得た知見をもとに、熱量高く活動の幅を広げている九州探検隊。今後の活動も見逃せません。

PROFILE

  • 伊藤 敬一郎

    株式会社博多大丸 営業統括部 事業開発部スタッフ 九州探検隊担当

     

    隊員No.004。20007年入社。営業推進部や食品部などでバイヤーやマネージャーを経験。食品バイヤーとしての手腕を買われて、九州探検隊を兼務。その後、専任となり鮮度の高いヒット企画を次々と繰り出している。

  • 上杉 恵

    株式会社博多大丸 営業統括部 事業開発部スタッフ 九州探検隊担当

     

    隊員No006。2008年入社。婦人服や化粧品、子供服などでプロモーションやサブマネージャーを経験。その後、九州探検隊に入隊。各隊員が開拓した情報をとりまとめ、新規事業につなげる役割として頼られている。

  • 箱崎 純史

    株式会社博多大丸 営業統括部 事業開発部スタッフ 九州探検隊担当兼広報担当

     

    隊員No.002。1993年入社。紳士服や食品のバイヤー・マネージャー、外商などを経て、広報担当へ。九州探検隊の活動には広報が欠かせないとのことで、結成当初からメンバー入りを果たす。テレビやYouTubeなど出演も果たす、博多大丸の名物広報担当。