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2023.08.24

京都・壬生に新たなシンボルを。新選組・土方歳三の胸像建立プロジェクトに迫る

京都・壬生に新たなシンボルを。新選組・土方歳三の胸像建立プロジェクトに迫る
大丸京都店で2018年にスタートした「古都(こと)ごとく京都プロジェクト(以下、KKP)」は、京都の更なる活性化に貢献するため、地域ネットワークを活用した新しい取り組みにチャレンジしています。その一環として、結成160年を迎えた新選組ゆかりの地・壬生寺に土方歳三像を建立するプロジェクトを推進しました。このプロジェクトに深くかかわった大丸京都店の谷京子さん、律宗大本山壬生寺の貫主・松浦俊昭さんに、2023年7月16日の完成お披露目会までの道のりや地域社会との連携について詳しく伺いました。

取材・執筆:後藤久美子 編集:末吉陽子 撮影:津久井珠美

 

土方歳三像を全国から壬生を訪れるきっかけの一つに


 

創業の地・京都とともに歩んできた大丸京都店は、“本物”の伝統・文化を継承していきたいという強い思いを背景にKKPを立ち上げました。壬生寺との協業は、2020年に新選組の印象的な装いである「だんだら羽織」を復元するプロジェクトにさかのぼります。史実をくまなく調べ再現したことで、全国の新選組ファンから喜びの声が寄せられました。

 

二度目のコラボレーションとなる「土方歳三像建立プロジェクト」は、地域の方に喜んでもらうことをしたいと常に考えながらKKPを推進している谷さんが「新選組結成160年の節目に、何か地域を盛り上げることができないか」とふと口にしたことがきっかけでした。谷さんは、このように振り返ります。

 

大丸京都店 KKP担当 谷京子(以下、谷):「KKPは京都の歴史や伝統・文化を発信し、地域振興に貢献することを主眼に置いて活動しています。地域の業者様や団体様など、たくさんの方々とご縁を紡いでいる中で、壬生寺様とは、だんだら羽織の復元プロジェクトをきっかけに、雑談ベースで気軽に相談し合える関係になりました。そうした背景があり、新選組の結成160年に何かしたいと投げかけたら、松浦貫主から『慰霊と顕彰』という言葉が出てきたんです。それがきっかけで、『新選組の功績を世に伝え、慰霊の輪を広げるために土方歳三像を建立できないか』という話になりました」

 

大丸京都店の谷さんが着物を着て話している写真

大丸京都店でKKPを推進する谷さんは「京都の歴史や伝統・文化を発信し、地域振興に貢献していきたい」と語る

 

 

松浦貫主はその意図について、こう説明します。

 

律宗大本山壬生寺貫主 松浦 俊昭(以下、松浦):「壬生寺の境内には近藤勇胸像があり、悩みがあるとその前で手を合わせる参拝者もいるほどです。新選組の存在を心のよりどころにする方は後を絶たず、特に土方歳三の功績に尊崇の念を抱いている方は少なくありません。そこで、土方歳三の息遣いを感じられる像を通して、先の時代へ新選組の存在を伝えていくことが、私どもの役割ではないかと考えました。また、像の建立をきっかけに、歴史やロマンを求めて壬生を訪れる方が増えると良いなという思いもありました」

 

律宗大本山壬生寺貫主の松浦さんが話している写真

律宗大本山壬生寺の松浦貫主は「土方歳三像を通して、先の時代へ新選組の存在を伝えていく」と話す

 

壬生寺の新しいシンボルとして土方歳三像を建立することで、新選組のさらなる慰霊・顕彰に加え、これからも京都や壬生の地にたくさんの人々が訪れ、地域が盛り上がってほしい。松浦貫主とKKP、双方の思いが共鳴し合い、谷さんは何としても成し遂げようと心に誓います。

 

谷:「KKPのミッションでもある地域振興はもちろんのこと、『土方歳三は幼少期に松坂屋上野店で丁稚奉公をしていた』『当時大丸京都店がだんだら羽織を誂えた』という逸話が残っています。新選組と当社との縁の深さを現代の世でも示すという意味からも、KKPとして実現をお手伝いする価値があると考えました」

 

 

新選組結成160年のストーリーを丁寧に伝え、支援者と銅像建立の喜びを分かち合う


 

こうして走り始めた土方歳三像建立プロジェクト。実現に向けて、谷さんは仲間探しをスタートしました。最初に協力を得たのは、地域活性のためのプロジェクトをバックアップするクラウドファンディング「BOOSTER(ブースター)」を運営している、パルコの堀岡幸喜さんでした。

 

所属会社や勤務地が異なる谷さんと堀岡さんは、接点がないように思えますが、意外な共通点がありました。

それはJ.フロント リテイリング(以下、JFR)グループのビジネスアイデアコンテスト。谷さんは2019年にKKPの取り組みを発表して準グランプリを受賞、堀岡さんは翌20年にBOOSTERの取り組みでグランプリを受賞しました。これを機にお互いの取り組みに共感し、今回のプロジェクトでタッグを組むことになったそうです。

 

※BOOSTERに関する記事はこちら

 

BOOSTERを紹介された松浦貫主は、一緒に取り組む意義を感じたと言います。

 

松浦:「壬生寺で50年前に近藤勇胸像を建立した時は、東映の映画俳優や歌舞伎俳優など、多くの方が寄進されたと聞いています。クラウドファンディングは特定の人だけではなく賛同者の厚意を資金というかたちで集めることができます。土方歳三像建立は多くの人の思いが集まって実現することに価値があると考えていて、BOOSTERはその趣旨にかなっていると思いました。」

 


さらに、銅像製作者や返礼品などの協力会社を繋ぐ担当として、地域と強いネットワークを持つ地元企業の株式会社ミームファクトリー・田村憲一さんが加わり、各々が得意な領域でプロジェクトを進めていきました。

 

谷さん、松浦さん、堀岡さんが話し合っている写真

壬生を盛り上げたいという情熱を起点にプロジェクトメンバーの連携が加速

 

 

クラウドファンディングは「資金集め」というイメージが先行し、伝え方を誤ると誤解も生まれやすい手法です。だからこそ、「正しく伝え賛同してもらうこと」を大切にしたとのこと。BOOSTERのプロジェクトページでは趣旨や目的を正確に伝えることを重視しており、ライティング担当の谷さんは堀岡さんと相談しながら、何度も文章を推敲しました。堀岡さんは次のように振り返ります。

 

パルコ 宣伝部 堀岡 幸喜(以下、堀岡):「壬生寺に建立する意義や歴史的な関わりを正しく伝えるには、どう表現したらいいかを追求しました。また今回実施したのは、プロジェクト支援へのリターンとしてモノやサービスを得る『購入型クラウドファンディング』ということを踏まえ、返礼品にはとことんこだわりました。銅像と同じシルエット・表情を再現したミニレプリカや、半永久的に支援者名を記す銘板など、他の事例を研究しながら、支援者に『一緒に作ったんだ』という実感を持っていただけるものを考えました」

 

 

パルコの堀岡さんが話している写真

パルコ宣伝部でBOOSTERを担当する堀岡さんは「支援者の方々にプロジェクトの意義を正しく伝えることが重要」と語る

 

堀岡さんは、宣伝計画についてもプレスリリースや百貨店顧客向けメールマガジンでの告知など、綿密なスケジュールを構築。工夫の甲斐あって、クラウドファンディングの開始後すぐに情報が広がり、良いスタートを切れたと言います。

 

KKP×BOOSTERの街づくりを新たなムーブメントに

 

BOOSTER を通して目標額の1500万円を大幅に超える約2100万円を集め、2022年10月から像の設計をスタート。支援者からはたくさんの応援メッセージが届いたとのことです。

 

そして、10ヶ月経った2023年7月16日、KKP×BOOSTER×壬生寺×ミームファクトリー×支援者1,271名の思いを乗せ、土方歳三像は壬生寺の境内で、その姿を披露しました。隊長・近藤勇の胸像のほど近くに建立されたことも、歴史ファンの大きな関心を集めました。

 

 

除幕式で大丸松坂屋、パルコ、子孫の方、僧侶の10名で土方歳三の銅像を囲んでいる様子

除幕式には、大丸京都店山崎店長、パルコ林執行役員をはじめ、子孫の土方愛(めぐみ)さんや像を手掛けたタナベシンさん、京都府知事、京都市長らも参列

 

谷さんは「土方歳三像をきっかけに街を訪れる人が増えてほしいですね」と笑顔を見せてくれました。堀岡さんは「多くの人の思いが一つになり実となった。この喜びを分かち合いたいのが率直な気持ちです。ここに来て像に手を合わせようと思ってくださる人が一人でも増えるといいなと思います」とこれからを展望。

 

松浦貫主は、これまでを振り返りながら「それぞれができる役割を果たし補い合いながらプロジェクトが動き、そこに多くの方の支援が合わさりこの像は完成しました。責任を持って像を守り、歴史を紡いでいきたいです」と語ります。

 

 

土方歳三像の写真

新選組結成時の“勇猛果敢”をイメージして制作された土方歳三像

 

谷さんと堀岡さんは土方歳三像建立プロジェクトで得たノウハウやネットワークをグループ内で共有していき、新たなプロジェクトがグループ内で生まれることを期待したいと口を揃えます。

 

堀岡:「企業活動を通じて、地域共生につながること、社会的意義のあることを具現化していくことが期待されています。今回のようなプロジェクトが次々と生まれていけばいいなと思います」

 

KKPでつながった京都のネットワークを活かすことはもちろん、グループ内の各社と京都を連携させることで、京都という街に貢献していくことも、KKPがグループに興したいムーブメント。谷さんは「KKPの活動をもっと広めて、地域の方々、そして社員の皆さんにもいろんなことをしているおもしろいグループだと思ってもらいたい」と目を輝かせます。


KKP、BOOSTER、地域の方と、それぞれができることを掛け合わせることで、街に新しい価値が生まれる好例となった土方歳三像建立プロジェクト。今後も互いのアイデアを掛け合わせ、ユニークなプロジェクトを生み出すことが、地域振興の大きな息吹となっていくことでしょう。

 

近藤勇像の前で撮影をしている写真

 

左:近藤勇像にプロジェクト完遂を報告 右:土方歳三像建立 結縁者一覧(銘板) 50年前の近藤勇像と同様に、今回も多くの人の思いが実を結びました

 

 

 

PROFILE

  • 谷 京子

    株式会社大丸松坂屋百貨店 大丸京都店 営業推進部

    古都ごとく京都プロジェクト(KKP)担当

     

    2002年入社。大丸京都店婦人雑貨子供服部(化粧品・アクセサリー・ハンドバッグ)、コスメショップ<アミューズボーテ>立ち上げを経て、2018年から現職。2019年JFR発明アワード準グランプリ受賞。2020年京都産業大学日本文化研究所特別客員研究員。京都・観光文化検定試験1級。

  • 松浦 俊昭

    律宗大本山壬生寺貫主、律宗総本山唐招提寺副執事長

     

    鑑真和上ゆかりの言葉「共結来縁」にちなみ、人と人をつなぐ活動を中心に「京都をつなぐ無形文化遺産」である地蔵盆や風習・文化などを、信仰に関わらず多くの方に広めている。

  • 堀岡 幸喜

    株式会社パルコ 宣伝部 ソーシャルビジネス担当

    プロジェクトリーダー

     

    2007年入社。店舗・経理部門を経て現在のチームに参画しパルコが運営するクラウドファンディングサービス「BOOSTER(ブースター)」を通じて、地域活性につながる仕掛けづくりやプロジェクトの運営に携わる。2020年JFR発明アワードグランプリ受賞。