1. TOP
  2. FRONT LINE 一覧
  3. 生活を豊かにする現代アートへのハードルを下げる。「アナザーアドレス」の新たな取り組み

2023.09.19

生活を豊かにする現代アートへのハードルを下げる。「アナザーアドレス」の新たな取り組み

生活を豊かにする現代アートへのハードルを下げる。「アナザーアドレス」の新たな取り組み
2023年9月1日から「アナザーアドレス」では、現代アートのサブスクリプションがスタートしました。デザイナーズファッションを気軽に試してもらうことで、ファッションの魅力を伝えてきた「アナザーアドレス」が、新しい領域としてアートに着目した理由、さらに現代アートの楽しみ方をアナザーアドレス事業責任者の田端竜也さんと、この取り組みでタッグを組むThe Chain Museum取締役COOの田中潤さんに伺いました。

取材・執筆:苫米地香織 撮影:小野奈那子

 

 

気持ちや生活を豊かにするアートを気軽に生活に取り入れほしい


 

―はじめに、アナザーアドレスでアートを扱うことになった経緯を教えてください。

 

大丸松坂屋百貨店 アナザーアドレス事業責任者 田端竜也(以下、田端):理由の一つは、僕自身が自宅にアートを置くようになって、改めて「家にアートがある生活っていいな」と思ったことです。

 

最近はストリート系のアーティストがプリントTシャツを作って、若い人たちが着ていますけど、その人たちが家にアートが置いているかというとまだハードルが高く感じているように見えます。もし、その人たちが家にアートを置くようになったらもっと生活や気持ちが豊かになるのではないかなと思ったんです。

 

もう一つの理由は、アナザーアドレスが最終的な目標としているのは“モノのサブスクリプションのプラットフォーム”になることだからです。ファッションだけに特化しているわけではなくて、様々なモノの中で自然な流れでアートにチャレンジしようとなりました。

 

大丸松坂屋百貨店の田畑さんが話している写真

アナザーアドレス事業責任者の田端さんは「最終的な目標としているのは“モノのサブスクリプションのプラットフォーム”になること」語る

 

The Chain Museum 取締役COO 田中潤(以下、田中):なるほど。最初からアートも視野にはあったんですね。

 

 

―それからどういう経緯でThe Chain Museumとタッグを組むことになったのでしょう。

 

田端:自宅にアートを置くようになり、チーム内でも「アートをやりたい」という声が上がり始めた頃、別の部署で働く同僚からThe Chain Museumさんと最近連携を始めていると教えてもらいました。それですぐに「紹介してほしい」とその同僚に頼んだんです。

 

田中:そうだったんですね!こちらも J. フロント リテイリングとの資本を含めた業務提携についての話を決めたところで、その担当者から「アナザーアドレスがアートのサブスクを考えている」と伺いました。タイミング的に、すごい偶然だなと思っていました。確か6月頃の話でしたよね?

 

田端:4月に「アートやりたい!」と言いだして、6月にアプローチして、9月のローンチです。

 

田中:そのスピード感はすごいですよね(笑)

 

 

―お互いの思いが絶妙なタイミングでクロスして驚異的なスピードでこの取り組みが決まったわけですが、なぜアナザーアドレスでアートを扱いたいと思ったのですか?

 

田端:アナザーアドレスには「ファッション・エンパワーメント」という大事にしているキーワードがあります。素敵な服を着ると気分が上がったり、自信が湧いてきたりしませんか?ファッションにはその結果その人を素敵に魅せて人生を変えるきっかけになるパワーがあると信じています。ただ、多くの人がデザイナーブランドにお金や空間や時間などの制約を感じている。なので、ハードルを少しでも下げることでファッションを多くの人に楽しんでほしいと考えています。それと同じで、アートも気軽に生活に取り入れてみて欲しい。それによって気持ちや生活が豊かになれるといいなと思って始めました。

 

 

一部の人たちにとどめずたくさんの人へ開放する仕組み


 

―田中さんがアートの仕事やThe Chain Museumに携わるようになったきっかけは?

 

田中:The Chain Museumは実業家でアーティスト、アートコレクターでもある遠山正道とクリエイター集団『PARTY』を率いる伊藤直樹の二人を中心に創業の話があり、僕はそのオペレーションを任される形で入りました。

 

The Chain Museumのサービスである「ArtSticker」をつくるきっかけとなったのは、代表の遠山正道が、2017年に開催されたアート・バーゼル(バーゼル)に訪れた際の体験にあります。

 

アート・バーゼル(バーゼル)は、世界最大級の現代アートフェアで、アート界を牽引するトップオブトップとして存在していますが、実際に遠山が訪れ現実を目の当たりにすると、その権威性や敷居の高さから疎外感を感じました。

 

そこで、美術館やギャラリー、芸術祭などがもっと日常に介入してくるような場を作ったら面白いのではと考えるようになりました。音楽にメジャーレーベルやインディーズ、オルタナティブというジャンルがあるように、アートにももっと多様なジャンルがあっていいんじゃないか、と。

まだまだ敷居が高いと思われがちな、ある種権威的なアート業界と、我々生活者目線としての日常が交差した領域に可能性を見出しました。そこで、アートと個人が直接つながり、気軽にアーティストを支援できるプラットフォームを作ろうと思い、ArtStickerが誕生しました。

 

アートと聞くとかしこまる人もいますが、もっと気軽に「なんかこの絵、カワイイ」「この作品、好きだな」「よく分からないけどカッコいい!」という感じでアートに興味を持って、手に取ってみる。そういうマーケットを作ることが僕たちの仕事だと思っています。

 

The Chain Museumの田中さんが話している写真

The Chain Museum取締役COOの田中さんは「気軽な感じでアートに興味を持ち、手に取っていただけるマーケットを作りたい」と話す

 

田端:改めて聞くとアナザーアドレスの思想と似ていますね。デザイナーズブランドも一部の富裕層やファッションラバーにしか着られなくなりつつある状況でしたので、サブスクリプションにすることで、気軽にデザイナーズブランドに挑戦してもらいたいと思って、この事業を立ち上げました。

 

田中:そうだったんですね。百貨店を利用するお客様がメインだと思っていました。

 

田端:実はアナザーアドレスのメイン層は30~40代で、どちらかといえば、ファッションが大好きって方ではなく、周囲の人から「オシャレだね、可愛いね」と言われるとうれしい、と思うくらいの感覚の人からの利用が多いです。百貨店のお客様ともほとんど被っていないんです。

 

 

―まだローンチしたばかりですが、この事業はどうなっていくと思いますか?

 

田端:始まったばかりなので、アートが家にある生活を提案してみて、サイトに掲載しているアートを見てもらい、ユーザーがどんな反応を示すのかを見ながら変化していきたいなと。

 

田中:そうですよね。僕らとしてはアート作品の在庫がないと言われることが目標ですけど(笑)。

アートが身近な環境で育ったか否かで、反応の仕方も違いますよね。全く身近になかった人にいきなり「アートを買ってください」と言っても伝わらないけれど、少しでも興味のある人に「まずはお試しからいかがですか」と言えば、置いてみようかなと思うかもしれません。そういったきっかけになればいいですね。

 

田端:アナザーアドレスも最初はそんな感じでしたから可能性はあると思います。一度飾ったら手放せなくなる人もいると思いますよ。

 

アートの写真

「アナザーアドレス」では、2023年9月1日から、現代アートのサブスクリプションが始まっている

 

 

親和性の高い現代アートとデザイナーズブランド


 

―現代アートというと、とっつきにくいものという感覚や、興味はあっても何から始めたらいいかわからないという印象があります。

 

田中:そうなんです。どこで買えばいいのか、何から始めればいいのかわからない人はたくさんいます。今回の取り組みでそういった方々のハードルを下げることができたらいいなと思っています。

 

田端:美術館に飾られているイメージだと敷居高そうですが、芸大生や若手の作家さんが制作するアートは身近に感じられると思います。例えば卒業制作展や商業施設のギャラリーに行くと作家と気軽に話せますし、作品に込めた思いや制作秘話を聞くことができます。その辺りはデザイナーズブランドと同じですよ。ブランドの展示会に行って、デザイナーにコンセプトや素材の事を聞くのと変わりません。

 

田中:現代アートへのハードルというものは、自分が勝手に立てたイメージだと思うんです。そんなことは気にせず、自由に感じればいいんです。どこから手を付ければいいかわからないという方は、「ArtSticker」やSNSとかで発信している作家をフォローすることから始めてみることもお勧めです。

現代アートの面白さは作家が生きていることなんです。僕も好きな作家がいますが、成長と共に作品が変化していくところもいいんです。

 

 

ArtStickerの写真

アーティストをフォローして、新しい作品や購入可能な作品の情報を知ることができるのも「ArtSticker」の楽しみ方の1つ

 

 

―確かにデザイナーズブランドと同じですね。改めて選び方や楽しみ方などを教えてもらえますか?

 

田中:直感でいいですよ!強いて言えば、自分では選ばないような作品をチョイスするのも面白いかもしれません。部屋に置いてみて「意外と合う」ということもあるかもしれません。いろいろ試せるのがレンタルの良さですから。

 

田端:その選び方もファッションに通じますね。普段は着ないような服でも借りるならいいかなあ、と気軽に選ぶようにアートも選んで欲しい。あと、飾り方も自由でいいですよね。

 

田中:そういえば、田端さんは階段に置いているそうですね。そんな感じでいいんです。壁に飾るだけでなく、立てかけて置くだけでもいいですし、棚に置くのもあり。自由な置き方が自分自身のクリエイションにもなりますからね。

 

 

―時期尚早ですが、今後この2社でどんなことをしていきたいですか?

 

田端:僕の基本思想にはシリコンバレーの合言葉『Change the life, Change the world』があって、人々の生活が変わるとその結果として世の中も変わっていくと思っています。今回の取り組みはもちろん、そういうことができたらいいなと思っています。

 

田中:僕たちも社内で現代アートの定義をずっと議論していて、行きついた言葉が『気付きのトリガー』でした。これが例えば『アートの民主化』だとすると、「アートを好きになれ」という押し付けになってしまいます。そういう形でアートを牽引するのではなく、まずは少しでも興味のある人たちからアートを身近に見て感じてもらい、なにかしらの気付きがあるかもしれない。そのきっかけを提供するのが現代アートの役割なので。

 

現代アートは、大きなカルチャーの括りの中にある小さな一部だと思っていて、その中にはファッションや建築、音楽、映画などいろんな分野があり、その中でもファッションと現代アートは親和性が高いと改めて感じました。アナザーアドレスをきっかけにアートのある生活を体験してみて欲しいです。それが徐々に広まっていければいいですね。

 

 

田中さんと田畑さんが話している写真

ファッションと現代アートは親和性が高いと語り合うお二人

 

 

 

株式会社The Chain Museum
公式ウェブサイト(外部サイトに移動します。)
https://t-c-m.art/
ArtSticker(外部サイトに移動します。)
https://artsticker.app/

 

AnotherADdress(外部サイトに移動します。)
https://www.anotheraddress.jp/

 

PROFILE

  • 田端 竜也

    株式会社大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 DX推進部

    AnotherADdress(アナザーアドレス)事業責任者

     

    2011年に大丸松坂屋百貨店に入社。店舗でワインアドバイザー/ソムリエとして売り場運営に従事した後、14年よりJ.フロント リテイリングのIT新規事業開発室へ。IT、スタートアップ周辺の新規事業案件に携わる。明治大学大学院で経営学修士、マレーシア工科大学大学院で経営工学修士を取得。

  • 田中 潤

    株式会社 The Chain Museum取締役 COO 

     

    広告代理店を経て、2012年に株式会社パーティーに参画。パーティーから連続的にスタートアップを生み出し、COO/CFOを務める。2018年にThe Chain Museumを創業。グロービス経営大学院大学MBA修了。