2025.09.11
東海随一のファッション&カルチャー集積地へ。名古屋PARCO「街を変える」挑戦と進化

取材・執筆:小泉ちはる 編集:末吉陽子 撮影:関口佳代、上野英和
歩くたびにワクワクする場所へ。栄エリアを「魅力あふれる街」にする挑戦の軌跡
――名古屋PARCOが大規模なリニューアルに挑戦した背景を教えてください。
森田広司氏(名古屋PARCO・森田):J.フロントリテイリング(JFR)グループでは、栄エリアで10の商業施設を展開していますが、「この街の魅力をどう高めていくか」という課題にずっと向き合っています。
山田大地氏(名古屋PARCO・山田):ここ数年、栄エリア全体の来街者の数は減少傾向でした。さらに追い打ちをかけたのがコロナ禍。消費の動きが名古屋駅周辺に傾いてしまって、「わざわざ栄に足を運ぶ理由がなくなってきている」──これはかなり深刻な問題ですし、名古屋PARCOの価値を届けきれていない表れでもあります。
名古屋PARCO・森田:また、JFRグループとして栄の開発に注力しており、2024年から隣接する松坂屋名古屋店も大規模なリニューアルを進行中、2026年にはザ・ランドマーク名古屋栄を開業予定です。栄エリアにおけるJFRグループのプレゼンス強化が本格化しつつある中で、名古屋PARCOも足並みを揃える必要があり、再定義と刷新が求められたというわけです。
名古屋PARCO 森田氏「名古屋栄の街の魅力をどう高めていくかにずっと向き合っています」
――リニューアルの意図や戦略について教えてください。
名古屋PARCO・山田:調べてみると、名古屋エリアの若年層マーケットは、全国的に見てもトップクラスの規模があるんです。それならばと、栄からエリア最先端のユースカルチャーを発信するという意味で「東海随一のファッション&カルチャーの集積地をつくろう!」という方向性でリニューアルをスタートさせました。
具体的には、西館をユースカルチャーの最前線、南館をセレクトショップ中心、東館はエンタメとキャラクターに特化した空間として整備し、各館のプレゼンスを明確にしました。
名古屋PARCO・森田:目指すは、とにかく「行くのが楽しみになる場所」。「体験価値のあるビル」になりたいと思っています。
名古屋PARCO・山田:ファッションの話でいうと、実は全国のPARCOの中でも名古屋PARCOは若年層支持率でトップクラスを誇ります。そこで、立ち位置を明確化するために、ニッチな提案も含め10代~30代向けの消費市場への打ち出しを強めていこう、という話になりました。
名古屋PARCO・森田:キャラクターコンテンツは、ショップもイベントスペースも名古屋には少ないのが現状でした。そこで、常設のショップに加えて、トレンドを発信するポップアップや展覧会、体験型の演出などを複合的に組み合わせて展開することに。それによって、お客様への価値提供だけでなく、企業さんや権利元さんに「名古屋PARCOに出店する意味がある」と思ってもらいたいと考えました。
名古屋PARCO・山田: 目指しているのは、ストリート、サブカルチャー、オタク文化など多様なカルチャーが共存し、ユース世代にとって憧れや共感の対象となるブランドが集まるPARCOを再構築することにあります。日々若いエネルギーが集い、発信が生まれ、新しいカルチャーが育まれる環境を作っていきたいと考えました。
また、JFRグループ各施設との連携を深めることで、街全体としての魅力を面的に高め、一人のお客さまが、ずっと通い続けてくれることで生まれる価値(LTV)の向上とともに、栄エリアの活性化にも貢献していく構想です。そんな想いを込めて、今回のリニューアルに取り組んでいます!
名古屋PARCO 山田氏「日々若いエネルギーが集い、発信が生まれ、新しいカルチャーが育まれる環境を作っていきたいです」
取引先との関係性、地域と顧客の特性を活かす。名古屋PARCOならではの店舗づくり
――リニューアルにおける具体的な取り組みを伺いたいです。まずはファッションについて教えていただけますか。
名古屋PARCO・山田:そもそも「ユース層に向けた都心型の価値やカルチャー体験を提供しきれていないのでは」という課題感がありました。そこで、2023年に上場し数多くのZ世代向けブランドを生み出してきたyutoriさんに注目したのです。
yutoriさんは既存のファッションブランドとは一線を画す、全く新しいプレイヤーです。
株式会社yutori 土田天晴氏(以下、yutori・土田):yutoriの強みは、発信力とファッションを通じて独自の消費体験を提供している点です。「著名人が着ているから欲しい」という共感や憧れが購買意欲をかきたて、結果として購入者同士やスタッフなどyutoriに集まる人がコミュニティを形成しています。
yutori土田氏「複数のブランドの買い回りが当たり前の時代だから、多くのお客様が集まる商業施設内への出店はメリットもシナジーもあります」
名古屋PARCO・山田:今までにない消費体験は、PARCOが求める「共感・体験・コミュニティを創り出す」とも合致しています。また、yutoriさんは自社を「若者帝国」と位置づけています。主要ターゲットが近いこともあり、ビジョンを共有できるのではないかと考えました。
――現在、yutoriさまは名古屋PARCOに8ブランドを出店されているとのことですが、出店の背景や出店後の手ごたえについて教えていただけますか。
yutori・土田:8ブランドの中でも、「YOUNGER SONG」はもともとカルチャーとオタク文化がカオスに混ざり合う大須エリアで路面展開していました。しかし、山田さんとの出会いをきっかけに名古屋PARCOへの出店へシフトしたんです。
今は、「このトップスはこのブランド」「パンツはこのブランド」と買い回りが当たり前の時代。そうした変化の中で、より多くのお客様が集まる商業施設内への出店は、メリットもシナジーもあると考えました。
出店後は、売上が120~130%アップし、手応えを感じています。名古屋PARCOに入ってから、非常に歯車がうまく回っているなという実感はありますね。
何より名古屋PARCOの皆さんは、熱量がすごくて(笑)。対等の立場でしっかり意見交換をしてくれます。それがシナジーに繋がっていますし、店舗づくりがしやすいですし。名古屋PARCOでなければ、8ブランドに拡大していなかったです。
yutoriが名古屋PARCO内に展開するブランドショップの一部。左上は土田氏がプロデュースする「YOUNGER SONG」
名古屋PARCO・山田:ファッションを起点にいかに「面白い発想を広げられるか」を追求するyutoriさんの姿勢に、私たちも刺激を受けています。他のブランドも、yutoriさんに注目しているようです。yutoriさんとの取り組みを強化することによって、新時代のユースカルチャーを担うブランドともより一層取り組みが盛んになり、数字もついてきています。この追い風は、yutoriさんがいなければ吹かなかったと思います。
――次に、エンターテイメントとキャラクターの取り組みについて教えてください。
名古屋PARCO・森田:西館側がヤングファッションのプレゼンスを確立したため東館のエンタメ・キャラクターゾーンもそれに呼応したターゲティングをしています。メインターゲットは、10代~30代女性、幼少期に『プリキュア』シリーズを視聴していた層です。そこで、東映アニメーションさんにお声がけをさせていただきました。
東映アニメーション株式会社 阿部亮介氏(以下、東映アニメーション・阿部):森田さんのおっしゃる通り、『プリキュア』シリーズは20周年を迎え、かつての視聴者で再び関心を持つ層が名古屋PARCOの主要ターゲットと重なったんです。
名古屋PARCOはファッションの印象が強いため、当初は社内で『プリキュア』シリーズとの親和性について、懐疑的な見方もありました。しかし、森田さんの施設の体験価値に対する向上心や挑戦しようとする姿勢に共感したことや、名古屋PARCOを起点にカルチャーを発信していきたいと考えたことから、出店に至りました。
東映アニメーション 阿部氏「名古屋PARCOを起点にカルチャーを発信していきたいです」
――名古屋PARCOへの出店にあたり、戦略と意識したポイントを教えてください。
東映アニメーション株式会社 石原健一郎氏(以下、東映アニメーション・石原):「PARCOへ出店する」が、一番のプロモーション戦略です。というのも、PARCOのカルチャーを発信するパワーは凄いんですよ。「作品をもとに、どういった新たな体験価値を提供していくか」について、我々と全く異なる視点でお話をしていただける。そんなPARCOとタッグを組めるのは心強かったですし、それ自体が戦略的アクションでした。
東映アニメーション 石原氏「『PARCOへ出店する』が、一番のプロモーション戦略です」
東映アニメーション株式会社 内納優奈氏:「プリキュア プリティストア 名古屋店」は名古屋PARCOからの意見もふまえ、20代~30代の女性向けに開発されています。たとえば、グッズはクリアファイルやマルチケースなど大人が普段使いできるラインナップを意識していますし、名古屋店限定デザインの壁紙など、店内装飾にも工夫を凝らしました。
『プリキュア』シリーズ20作品の歴代オープニング映像を流す大型ビジョンを全国で初めて設置するなど、これまでの「プリキュア プリティストア」にはなかった演出が施され、「親子2世代で楽しめる場所」として新たな価値を創出しています。
東映アニメーション 内納氏「このストアは『親子2世代で楽しめる場所』として新たな価値を創出しています」
東映アニメーション・石原:名古屋PARCOの皆さんと積極的に意見交換しながら、名古屋ならではの店舗づくりを進めてきた経験は良い刺激になりました。名古屋PARCOへの出店を機に、「プリキュア プリティストア」の可能性も広がっていると感じます。
名古屋PARCO・森田:我々が『プリキュア』シリーズのコンセプトをより深く理解しつつ、「ブランドやキャラクターの世界観を体感していただくこと」を大切にしてストアの内装や商品展開についても積極的に提案することで、リアル店舗ならではの没入体験をお届けでき、お客様の気持ちをより高めていると実感しています。
2025年3月のリニューアルオープンした「プリキュア プリティストア 名古屋店」の店頭にて
栄からアジア、そして世界へ。名古屋PARCOが描く未来展望
――名古屋PARCOは、改装によってどのような変化を遂げたと考えていますか。
名古屋PARCO・森田:来館者数がコロナ禍前と比べて10%以上増加。インバウンド売上取扱高の伸び率もグループ内で上位になるなど国内外のお客様からの支持をいただいています。「東海随一のファッション&エンタメ・ポップカルチャーの名古屋PARCO」としてのブランド力がついてきたと思っています!
「東海随一のファッション&エンタメ・ポップカルチャーの名古屋PARCO」の実現に向けヤングファッションのプレゼンスを向上
名古屋PARCO・山田: yutoriさんとの取り組みが契機となり、国内未上陸の次世代ブランドの出店計画も進んでいます。ユース世代支持が高い韓国を筆頭とした、アジア諸国の注目ブランドです。
名古屋PARCO・森田:東映アニメーションさんとの取り組みも、他のテナントにご出店いただく際のモデルケースになっていますね。独自の商品展開、また従来の店舗にはない演出などを事例として挙げています。
壁面の仕様や店頭演出、商品展開など独自の仕掛けによりここにしかない空間を実現
名古屋PARCO・山田:ですが、まだまだ進化の余地があります!
名古屋PARCO・森田:名古屋PARCOでは、2026~2027年にかけて、さらなるリニューアルを計画しています。ファッションやカルチャーの提案力をさらに進化させ、名古屋PARCOという場所そのものを楽しんでもらえる仕掛けを継続していきたいと思っています。
――これからも進化し続ける名古屋PARCOで、どのようなチャレンジをしていきたいですか。
名古屋PARCO・森田:先に申し上げた通り、「体験価値のあるビル」を目指していきたい。その一環として、ファッションもエンタメ・キャラクターも、各ブランドの個性が体験できる、ファンコミュニティの場として店舗づくりを目指したいですね。
名古屋PARCO・山田:オンラインだけでは実現できない熱量の高い空間になることが目標です。
例えば、名古屋PARCOでは毎週のように朝から多くのお客様が集まる店頭イベントや、ここでしか買えない限定アイテム販売が様々な店舗で実施されています。都心型のブランド体験が購買に結びついて、結果的にモノを買う。そんな感覚で来てもらえるPARCOを作り上げていきたいです。
東映アニメーション・阿部:名古屋PARCOを中心に、エリア全体の価値を高めていきたいですね。そのために、当社と名古屋PARCO、さらに他ブランドを巻き込んだコラボレーションや商品企画を考えております。また、名古屋PARCOを「実験の場」とも捉えつつ、『プリキュア』シリーズがどのような新しい価値を生み出し続けられるかを探っていきたいです。今後も一緒に仕掛けていくのが楽しみです。
体験価値のあるビルを目指し、一緒に仕掛ける次の展開もすでに構想中と語る阿部氏と森田氏
yutori・土田:yutoriは東名阪での地盤が整った今、福岡や北海道などの第二都市、そして海外へと舵を切っていきたいと考えています。特に韓国や中国、台湾といったアジアへの展開を重視していますね。東京や大阪ほどインバウンドの支持が高くない名古屋という立地でありながら、名古屋PARCOは売上シェアの伸び率がグループ内でも上位に入っています。こうしたポテンシャルを持つ名古屋PARCOとなら、さらなるシナジーを生んでいけると考えています。
名古屋PARCO・山田:現在、パルコ全体としてアジア圏中心に海外でブランド認知拡大を進めており、yutoriさんとも方向性が一致しています。
アジア圏を中心に海外展開を進めていく方向性でも一致すると語る土田氏と山田氏
名古屋PARCO・森田:名古屋という街が海外にも知られ、旅行先として選んでいただけるようになっている中で、名古屋PARCOが中心となって栄エリアの情報を1つにまとめて世界へ発信することが重要かなと。行政とも連携しながら、第1弾としてPOP IS YOU SAKAEという情報発信の取り組みを開始しました。
名古屋PARCO・山田:名古屋PARCOには、会社の垣根を越えたコミュニティが生まれる文化、熱量があります。それが私たちの魅力であり、発信力に繋がっていると思います。
こうした発信力を武器に、お取引先や街と連動しながら「面白さ」を追求していきたい。名古屋PARCOが描く未来は、yutoriさんの「若者帝国」にちなんで言うなら、東海エリア最大の「カルチャー帝国」となること。そして常に新しい文化を生み出す舞台として、広く世界に発信し続けたいと思います。
PROFILE
土田 天晴
yutori Producer(現 YZ 執行役員)
2020年、株式会社BUZZ WIT (アダストリア子会社)に入社。
ブランドディレクター、SNSプロモーション事業に従事。2021年、株式会社AZR 取締役副社長に就任。ストリートブランド“Younger Song”のディレクターを務める。2023年、株式会社yutoriに参画。複数のブランドの運営に携わり、ヤングカルチャー事業部のプロデューサーを務める。2025年8月より、株式会社yutoriの子会社となる株式会社yz執行役員に就任。
阿部 亮介
東映アニメーション 営業企画本部 営業推進部 商品営業推進室長
2005年東映アニメーション株式会社入社。
入社当初は経理部所属。30代前半に一度営業推進部の前身である商品事業部に異動。再び経理部へ異動するも、お客様へ直接笑顔をお届けできる営業部門での経験が忘れられず、2022年12月より再び営業推進部に異動。
これまでの知見を活かし、各IPのストア事業の拡大、拡充を推進中。
石原 健一郎
東映アニメーション 営業企画本部 営業推進部 商品営業推進室 マネージャー
2020年東映アニメーション株式会社入社。
プリキュア、各アニメコンテンツの商品企画開発に着手。自社ストア、EC、アニメ映画公開時の劇場での販売をはじめとした、各流通販路での商品展開に従事。現在、主にプリキュア プリティストア新規店立ち上げをはじめ、POP UP STORE開催を企画。プリキュア以外の各アニメ作品のストアの出店についても推進中。
内納 優奈
東映アニメーション 営業企画本部 営業推進部 商品営業推進室 アシスタントマネージャー
2024年東映アニメーション株式会社に新卒入社。
プリキュア プリティストアの商品企画開発を担当し、現在放送されている作品から過去の歴代作品まで幅広い作品・キャラクター商品の開発を行う。SNSなどによる商品の販促施策考案や、店舗・ECでの購買体験の価値向上にも従事。2025年より、自社プリキュア商品の海外市場進出を目指し、販路拡大を推進中。
森田 広司
パルコ 名古屋店 営業課 マネジャー
2010年株式会社パルコ入社。
札幌店、千葉店、松本店、静岡店等でプロモーション、イベント、テナント誘致業務等幅広い業務に従事した後、本社にてアニメ・ゲームIPを活用した新規事業の立ち上げを経験。
2023年より名古屋店にてこれまでの経験を活かし、IPコンテンツを活かしたイベントや展覧会、プロモーション、テナント誘致まで総合的に推進中。
山田 大地
パルコ 名古屋店 営業課
2019年パルコ入社。
仙台PARCOにて主にプロモーションを担当。
2022年3月より名古屋PARCOへ異動し、コロナ明けの全館大規模リニューアル改装を推進。