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2024.02.06

グループ共創でサステナブルな取り組みを目指す。アナザーアドレスのアップサイクルブランド「reADdress」に、パルコが参画

グループ共創でサステナブルな取り組みを目指す。アナザーアドレスのアップサイクルブランド「reADdress」に、パルコが参画
ファッションサブスクリプションサービス「アナザーアドレス」が、2023年12月1日より、新たなブランドとして「reADdress(リアドレス)」を立ち上げました。シミや傷などによりレンタルが難しくなった衣類をアップサイクルした商品や、2023年2月に閉店した津田沼PARCOで使用していた備品を活用した廃材アートを、レンタル品として持続的に利用してもらうサーキュラープロジェクト。捨てられる運命だったものに新たな価値を与え、再び循環させるこのブランドを始めた経緯やプロジェクトへの思いを、大丸松坂屋百貨店アナザーアドレス事業責任者の田端竜也さんとパルコ コラボレーションビジネス企画部の吉川恵理子さんに語っていただきました。

取材・執筆:苫米地香織  撮影:藤原葉子

 

 

廃棄以外の選択肢を模索している仲間がつながり新たなサーキュラービジネスが始まった


 

―はじめに「リアドレス」を立ち上げた経緯を教えてください。

 

大丸松坂屋百貨店 アナザーアドレス事業責任者 田端竜也(以下、田端):アナザーアドレスは「ファッションニューライフ」というコンセプトの下、みなさんにほめられる新しいファッションの楽しみ方の一つとして、サステナブルなビジネスモデルとして考えだされました。さらに「みなさんにほめられるとは……」を突き詰め、シェアリングに付随して、環境に優しいクリーニング技術や修繕技術を追求し、サステナブルな梱包資材を開発しています。

この事業も2年半が経過し、新たな課題としてシミや傷などにより貸し出せなくなったアイテムが2000着強出てきました。

 

当初、貸し出せないアイテムはスタイリング撮影用に使ったりしていましたが、それでも眠らせてしまうアイテムがあり、なんとかできないかと考えていました。

そこで新たなプロダクトライフサイクルとして「ロングライフアイテム」というカテゴリーを増やしました。少々気になる汚れやほつれなどの不良箇所はあるけれど、8割程度の人が「そこまで気にならない」と思えるアイテムを少しお得な料金で借りることができるカテゴリーです。

これにより2000着強の中の3~4割は再びシェアリングに戻すことができましたが、それでも残ってしまうアイテムがありました。次はそれを蘇らせたいという思いで、「リアドレス」を立ち上げたのです。

 

構想中に、グループ会社内の情報交換の場で、吉川さんたちが進める津田沼PARCOの廃材活用の話を聞き、グループのいろいろな事業で排出する廃材の再活用を「リアドレス」に内包できるのではないかと感じました。

 

田端さんが話している写真

グループのいろいろな視点をアナザーアドレスに活かせたらと語る田端さん

 

 

―パルコが、廃材を活用しようと思った理由はなんですか?

 

パルコ コラボレーションビジネス企画部 吉川恵理子(以下、吉川):私が在籍する以前から、コラボレーションビジネス企画部では商業施設を運営する企業として、スクラップ&ビルドによる廃材を活かす新しい循環の仕組みを作ることができないかと考えていました。45年間営業してきた津田沼PARCOが閉店することになり、これまでに館内を彩ったポスターフレームや垂れ幕など思い出が詰まった品々を、廃棄するのではなくアップサイクルに取り組むことを考えました。

 

津田沼PARCOの廃材利用プロジェクトは、閉店前の22年春から構想がスタートし、社会的価値と経済的価値を両立するCSVにつながるよう、パルコの強みであるアーティスト・クリエイターとのつながりを活かして収益につながる方法を模索しました。

 

23年9月に第一弾として津田沼にゆかりがあるアパレルブランド「NEXUSVII(ネクサスセブン)」のデザイナー今野智弘さんに、館内で利用していたフラッグをリバーシブル巾着に、ポスターボードを壁掛けのコルクボードにアップアサイクルしていただいて販売しました。

 

10月からは第二弾として、外壁に使用していた垂れ幕を、靴職人の三澤則行さんに唯一無二のユニークなデザインの靴にアップサイクルしていただいて、12月下旬までオンラインパルコで販売していました。

 

そして、第三弾としてエントランス扉のハンドルバーの活用方法を考えているタイミングで、アナザーアドレスとの共創につながりました。

 

吉川さんが話している写真

廃材活用の取り組みは、前任者から引き継がれてきたこと。これまでの担当者の思いがあってこそと語る吉川さん。

 

 

 

―ハンドルバーは、ユニークなアート作品に仕上がりましたね。

 

田端:アナザーアドレスでは、昨年9月からアートをレンタルしていますが、ちょうどその構想をしていた時期と重なり、ハンドルバーをアート作品にアップサイクルできないか相談したところ、つながりのあるアーティストさんが手を挙げてくれました。

 

吉川:津田沼PARCOにはエントランス扉が9つあったので、全部で18本のハンドルバーがありました。その内の一組は、船橋市の郷土資料館で展示していただける機会があればと思い、保管していただいています。残りの8組16本を8名のアーティストさんにアート作品にしていただきました。

 

出来上がった作品は、私たちの思いをしっかりくみ取ってもらいつつ、アーティストのみなさんの個性あふれる作品に仕上がっていて、とてもうれしかったです。「PARCO」のロゴも上手く活かしていただいて、こんなに変わるんだと感動しました。

 

アート作品の写真

個性あふれるアート作品になった、津田沼PARCOのハンドルバー

 

田端:このアート作品は、池袋PARCO、吉祥寺PARCOで巡回展示した後、「リアドレス」で24年1月31日からレンタルを始めています。

 

―アナザーアドレスで貸し出せなくなった服はどうなるのでしょうか?

 

田端:「リアドレス」について考える中で、大切にしたポイントが3つあります。「日本の技術を活かせること」、つまり職人やデザイナー、作家の発想力が活かせることと、「トレーサブルであること」、これは「アナザーアドレス」という名前に「アドレス」が内包されていることにもつながるのですが、服やアート、デザイナーの作風などが年代を追うごとに変化していく様子を伝えることができること、そして「サーキュラーであること」です。

 

これらが上手く合致する手法として、「黒染め」と「パッチワークリメイク」に挑戦しています。津田沼PARCOの「廃材アート」も考え方が一致すると思います。

「リアドレス」はこの3つに絞ったわけではなく、これからも手法は広がるかもしれません。

 

 

 

画像

 

 

共創によって可能性は無限大に新しい視点を得ることでさらに広がっていく


 

―「リアドレス」について、ブランド側はどんな反応をされていますか?

 

田端:ブランド側の方やデザイナーさんは、「リアドレス」の思想に共感していただいています。その上で、先方のブランド価値を毀損しないように、丁寧にステップを踏んでアップサイクルしています。例えばタグは外すとか、ブランドのアイコニックな部分は使用しないことなど、配慮しています。

 

―サンプルを見た感想はいかがでしたか?

 

田端:「黒染め」は柄や色がほとんど見えなくなるのですが、素材によって染まり方が全く違うので、微妙な陰影や柄がうっすらと浮かび上がるところが新しいデザインになっていると思います。

 

「パッチワークリメイク」はブランド側もどんな仕上がりになったか気になっていたようで、サンプルを見たいという要望が多かったです。パッチワークは服の解体から始まるのでとても手間暇がかかっていますし、解体した服のどの部分からパーツを抜き出すかなどは制作する作家さんのセンスに関わるので、作り手の負担の方が大きいのではないかと思うほどです。

 

ネームタグにはその商品を手掛けた作家、デザイナーの名前と制作した日付を入れています。サンプルはブランド側からの評判も上々ですし、お客様からも「素敵な取り組みですね」「応援しています」とメッセージもいただいています。「リアドレス」「ロングライフ」ともにレンタルは好調です。

 

パッチワークリメイクのサンプルの写真

パッチワークリメイクのサンプル

 

―パッチワークの場合、例えば洋服以外のものも作れるかと思いますが……

 

田端:アートの素材として使ってもらうことができないかと考えています。デザイナーさんの中には「絵を描きたい」と言う方もいるので、どんどんつなげていければいいですね。

 

 

―そこからまた新たな共創ができそうですね。

今回、共創したことでそれぞれが得られたこと、そして今後に活かしたいことを教えてください。

 

吉川:廃材をどう活用して収益化するか、試行錯誤しました。新しい付加価値をつけ、その価値をきちんとお客様に伝えないと、購入いただくことが難しいということを実感しています。今回一緒に取り組んだことで、どのように付加価値をつけるかという視点に学びがありました。

 

田端:付加価値を上げることは、とても大切だと思っています。リサイクルだから価値が下がるのではなく、反対に一点だけの商品になることで、価値が上がる場合もあると思います。

 

「リアドレス」というブランドができ、パルコと共創できたことで、可能性の広がりを感じています。レンタルすることが根幹ではありますが、廃材アートの巡回展示をしたように、オンラインの枠から出るという選択肢が広がりました。

 

実際、お客さまからの要望で「袖を通してから借りたい」という声も届いていて、この共創をきっかけにリアルな場でお客さまと直接話しながら洋服を借りてもらうということもして行きたいですね。

事業を始める際、販売とレンタルはカニバリゼーションするのではないかという懸念もありましたが、2年半丁寧に取り組んだ結果、借りたことをきっかけに店舗へ行った人、商品を購入した人がいることがわかり、リアルに進出する可能性は広がっています。

 

吉川さんと田畑さんが話している写真

 

―吉川さんは今回の廃材を活用して循環させる経験を活かして、今後やってみたいことはありますか?

 

吉川:廃材の活用は、手間暇がかかるのでコストが上がり、収益化することが難しい取り組みです。テナントさんも、廃棄物には課題を感じていると思います。

テナントさんと一緒に取り組むことで収益化を実現できれば、それが付加価値となって、パルコに出店していただくきっかけの一つにつながるのではないかと考えています。

 

いまコラボレーションビジネス企画部の取り組みの一つとして、環境貢献につながるワークショップなどの体験商品をお客様に提供し、体験の対価として環境への貢献につながる寄付をお願いすることを構想しています。

田端さんも「リアルな場で」と言っていましたが、実際にご自身が体験できることに価値を感じるお客様はいらっしゃるので、例えば、「黒染め」の過程にふれることができる体験などが提案できたらいいと思いました。

 

田端:アナザーアドレスは、グループ内ベンチャーのような存在で、グループ内外の人たちとつながって面白い化学反応ができればいいと思います。

PROFILE

  • 田端 竜也

    株式会社大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 DX推進部

    AnotherADdress(アナザーアドレス)事業責任者

     

    2011年に大丸松坂屋百貨店(J.フロント リテイリング)に入社。大丸札幌店でワインアドバイザー/ソムリエとして売り場運営に従事した後、14年よりJ.フロント リテイリングのIT新規事業開発室へ。以降、一貫してIT、スタートアップ周辺の新規事業案件に携わる。現在はアナザーアドレスの責任者として事業拡大を推進。明治大学大学院で経営学修士、マレーシア工科大学大学院で経営工学修士を取得。

  • 吉川 恵理子

    株式会社パルコ コラボレーションビジネス企画部

     

    2017年入社 一級建築士。空間デザイン部を経て、2022年スタートアップ企業出向後、現職に着任。

    自分の専門分野を生かしつつサステナブルな仕組みをつくる新規事業に取り組みたく、廃材プロジェクトに挑戦。現在は、新規事業アイデアアワード通過案を事業化に向けて推進中。